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小说站 > 历史军事 > 殿さまの日(日文版)

正文 第9节 文 / [日]星新一

    が侵入したと注意することはできるが、そのすきにゆう

    ゆう逃げられる。栗子小说    m.lizi.tw

    万一にそなえ、次郎吉は各所のお寺の屋根裏に、飛脚ひきゃくの服装をかくしておく。数人の目明しに追われ、自宅へ帰れそうにない場合、ひとまずそこに逃げこむのだ。ここも町奉行所の手がとどかない。追手はまわりをかため、寺社奉行の許可か応援を待たねばならぬ

    。

    そのあいだに次郎吉は変装し、暗いうちにそとへ飛び出し、かけだすのだ。大名家が国もとの藩との定期連絡に使う、大名飛脚の姿になっている。そのための手形も盗んで入手してある。どこの関所も通過できる。文箱のなかを見せろなどと強要されることもない。盗んだ金が入

    っているのだが。

    さらにあとを追われたとしても、江戸から一歩そとへ出れば、またも目明しは手が出せない。江戸のそとは代官の支配下で、それは勘定奉行の管轄。ねずみ小僧が逃げたらしいと、町奉行から勘定奉行、そして代官にまで通達がとどくには、けっこう日時がかかる。そのころには

    、次郎吉は江戸に舞い戻っているというわけ。

    多くの大名屋敷のなかには、警備の厳重なのもある。邸内にひそんでいるところを、腕のたちそうな家臣に発見されることもある。しかし、次郎吉は平然と言うのだ。

    「じつは、将軍直属のお庭番、隠おん密みつなのです。この家に不穏な動きがあるらしいと、わたしが派遣された。しかし、隠密に証明書などあるわけがない。侵入者として切られても文句は言えない。だが、わたしを殺しても、また、つぎの隠密が派遣されるわけで

    、きりがないことでござるぞ」

    隠密と聞くと、どの大名家もびくりとする。とっつかまえて、本物かどうか問いあわせようにも、将軍直属ではそれもできぬ。へたに殺して、本物だったらことだ。どことなく怪しいが、怪しいからこそ隠密なのかもしれぬ。穏便にすませておいたほうがいいというものだ。

    「お役目ご苦労にござる。当家に不穏な動きがあるなど、事実無根のうわさ。将軍家には、なにぶんよろしくご報告を」

    などと、かなりの金をつかまされることにもなる。まったく、みごとな芝居。

    そのうち、次郎吉の耳に、こんな評判が入ってきた。

    「ねずみ小僧、なかなかやるなあ。痛快です。しかしねえ、大名家あらしばかりとなると、いささかあきてきますな。たまには、景気のいい商店から、ぱっと金を巻き上げてもらいたいものですよ。派手な豪遊をしている金持ち連中、それをへこましてくれると、胸がすっとするん

    ですがね」

    くりかえしだけだと、大衆は満足しなくなるものらしい。なにか変ったことをやってみせぬと、刺激にならない。こうなると、ねずみ小僧としては、人気を高めるために新しいことをやらなければならない。

    次郎吉は幕府の要職にある役人の屋敷から盗んだ衣服を着て、大小をさし、めざす商店へと出かける。

    「主人はおるか。分不相応のおごりをしているとのうわさがあり、真偽をたしかめるために来たのだ。事実であれば家財没収。だが、商店は信用が大切であろうと存じ、ただのうわさにすぎぬ場合、さわぎを大きくしては気の毒。よって、供も連れずに来たしだいだ。主人に内密に

    お会いしたい」

    主人はあわてて奥へ案内する。

    「担当のお役人には、いつもそのための付け届けをしておるはずでございますが。小说站  www.xsz.twあなたさまは、どのようなお役職で」

    「じつはだな、このところ、各奉行所の縄張り意識がひどすぎ、横の連絡がいいかげんになっている。目にあまるほどだ。そこでこのたび、勘定奉行町奉行連絡評定組という役が作られた。みどもは、その吟ぎん味み取調頭の者である。これがその任命書だ」

    次郎吉はもっともらしい書類を出す。主人は恐れ入るが、話のわかる役人らしいと察し、いくらか包んで差し出す。その時そわそわして引きあげかけると、かえって怪しまれる。おもむろに印籠をはずして渡すのだ。

    「ただ金をいただいては賄わい賂ろとなる。許すべからざることだ。これはみどもが老中よりいただいた印籠。進呈いたそう。良心もとがめないというわけでござる」

    主人は手にとり、高価な品と知る。

    「これはこれは、お気前のよろしいかたで。では、手前どもも、さらに気前よくさせていただきませんと」

    と、すごい大金を出された。次郎吉はそれを持ち帰り、あわれな子供たちにばらまき、号外をはりだす。強盗や傷害をやらなくても、かくのごとく商店から金を巻きあげられるのだとの〈ね〉の署名入りのやつをだ。

    江戸中がわっと沸く。

    「みごとなものですなあ。金持ちがだまされる話ぐらい、痛快なものはない。どこの商店か書いてないが、あそこの店かもしれないと推理する楽しさもある。たしかに新手法だ。このつぎには、どんな事件を起してくれるでしょう。わくわくしますなあ」

    新しいことをはじめると、さらに一段とすごいものでなければ、大衆は満足しなくなる。みなの期待が次郎吉をかりたてる。彼は悪循環に巻きこまれはじめた。

    そのころになると、ねずみ小僧の人気につられ、何人かの亜流が出現していた。うさぎ小僧、かすみ小僧、しみず小僧など、まぎらわしい小泥棒がうろうろしている。次郎吉は腹を立てた。この手法の義賊は、おれの考案になるものだ。勝手に模倣するのはけしからん。彼はそい

    つらの家をつきとめ、奉行所に密告した。

    亜流の小僧たちは全員逮捕。盗みためた金もろとも、奉行所に運ばれた。亜流とはいえ、これだけの泥棒をいっぺんに逮捕できたのは珍しいこと。奉行所の役人、与力同心目明したちは祝杯をあげた。ほっとした気のゆるみ。それに、奉行所に侵入をくわだてるやつがあるなど、

    考えもしない。

    そこをねらって、次郎吉は忍びこんだ。押収してあった金銭を、ごそっと持ち出す。それを見て、仮牢のなかの亜流小僧たち、声をかける。

    「ついでに、おれたちも助け出してくれ。同類のよしみで」

    「なにを言いやがる。おれは元祖。きさまらは亜流だ。獄門台で模倣の罪をつぐないやがれ」

    「ちくしょう。大声で役人を呼ぶぞ」

    「おあいにくだ。老中からと称し、おれがとどけた眠り薬入りの酒で乾杯しあい、みなぐっすりだ。あばよ」

    これをまた号外ではりだす。しかし、今回はほどこしをせず、べつな形で庶民のために使うとの予告つき。

    その約束は、やがて訪れた川開きの日にはたされた。花火の打ちあげが進んだころ、仕掛け花火が点火された。大きな〈ね〉の字が大川の上に輝く。同時に打ちあげられた大型花火が何十発。すばらしい美しさ。

    「いいぞ、ねずみ小僧」

    「ねの屋あ」

    こうなってくると、幕府もほっておけない。台湾小说网  www.192.tw奉行所が荒されては威信にかかわる。火付盗賊改ひつけとうぞくあらための一隊が出動するらしいとのうわさ。これは重罪犯逮捕のため、管轄にとらわれず活動できる、各奉行所から**した組織。どこへでも乗りこみ、独自に

    処刑もおこなえる。その指揮者は鬼のなんとかと称せられる、頭と腕のすぐれた武士。

    次郎吉は少しふるえた。いささか調子に乗りすぎたかな。あいつに乗り出されると、これまでのようにいい気分で動けぬ。といって、一方では民衆が期待している。

    機先を制してやろう。彼は老中頭の屋敷に忍びこんだ。幕府の最高権力者とはいえ、屋敷内の警備のいいかげんさは、他と大差ない。次郎吉は中奥へ忍びこみ、大金を盗みだした。持ち帰るには手にあまるほどの重さ。しかし、ちょっと運ぶだけでいいのだ。つまり、表御殿の

    来客用の座敷に移しただけ。そこで金を包みかえ、紙の表に火付盗賊改めの責任者の名を書いた。老中が見れば、昇進のための運動費とすぐにわかる外見だ。そして、次郎吉は引きあげて待った。

    計画はうまくいった。つぎの日、老中はそれを見てうなずく。そろそろ昇進させてくれとの意味であるな。働きぶりもいいと聞いている。口をきいてやるとするか。中奥ではなにか至急に金がいるとさわいでいる。ちょうどいいから、この金はそれに回そう。江戸城へ登城し、若

    年寄を呼んで言う。

    「そちらの配下の、火付盗賊改めを昇進させてはいかがであろうか」

    「は、妥当な人事でございましょう」

    老中の意向には従わざるをえない。その交代を知って、次郎吉は喜ぶ。新任者なら仕事になれるまで、しばらくは大丈夫というものだ。どんなやつか、顔でも見ておくか。

    しかし、あにはからんや、彼にとってはもっとやりにくい相手。名前は和泉甲蔵。顔をみると忘れるわけのない、子供の時に金をめぐんでくれた武士。おれの今日あるは、あの人のおかげといえる。あの人の在任中、おれが仕事をしてはぐあいが悪い。運動費を使って例の手で昇

    進させようにも、いくらなんでもすぐにはむりだ。仕方がない。しばらく旅にでも出るとするか。

    次郎吉は店を休業にし、西へむかい、気ままな旅に出た。金がなくなっても、彼にとって入手は簡単。京、大坂、長崎まで見物し、高野山はじめ各寺院に自分の供養料を前払いした。そんなわけで、江戸に戻るころには、もはや思い残すこともなくなっていた。

    「さて、そろそろ、ねずみ小僧としての人生の最後を飾るとするか。うんとはなばなしくやろう。後世に語りつがれるような形で。なにをやるかな。うん、江戸城がいい。白昼に公然と乗り込み、城内をあばれまわり、討たれて死ぬとするか。おれがはじめて表舞台へあらわれ、そ

    れが最後でもある。江戸の町人たち、あっと叫んで手をたたくぞ」

    次郎吉はまた武士の服装をし、御門からゆうゆう歩いて入った。外見がきちんとしているので不審に思われなかった。やがて表御殿、すなわち幕府の政庁の建物があった。その玄関からあがりこむ。大ぜいの武士たちが、もっともらしくなにかやっている。そのうち、次郎吉は老

    人に呼びとめられた。

    「みなれないかただが、貴殿はどなたでござるか」

    「勘定奉行町奉行連絡評定組の、吟味取調頭の者でござる」

    「聞いたことのない役職でござるな」

    「じつはな、じいさん。おれはねずみ小僧次郎吉ってんだ」

    「しっ、小さな声でお願いいたす。ばか話をしていると上役に思われたら、みどもはお役御免になる。せっかくここまで出世したのだ。それが本当の話であれば、なおのことだ。なんにも聞かなかったことにいたす。早くあっちへ行って下され。みどもを巻きこまぬよう、お願い申

    す」

    「ひでえもんだな」

    どこへ行っても同じこと。外と様ざま大名たちの控ひかえの間を抜けても、だれも見て見ぬふり。お家が大事だ。へたにさわがぬほうがいいのだ。次郎吉はさらに奥へ進んでみる。えらそうなやつが見とがめ、注意する。

    「このあたりは、そちのごとき身では入れぬことになっている。刀を持ちこんでもいかんのだ。無礼であるぞ」

    「なにいってやがる。おれはねずみ小僧次郎吉、見物したいんだ。とめられるものなら、とめてみやがれ」

    刀を抜いて見得を切る。背景は金色に絵を描いたふすま。芝居の大道具とはちがって、高級にして本物だ。次郎吉はうっとりとなった。それを見た周囲の連中はきもをつぶした。殿中で刀を振りまわしたのは、浅野内匠たくみの頭かみ以来の大事件。

    「なんたること。だれか出合え」

    さわぐ者はあっても、いまや文弱の世。殿中の係には、組み付く勇気のある者はない。切られて死んではもともこもない。せめて刀さえあれば、あいつを切ることぐらいはできそうだ。しかし、このへんは刀を持ちこんではいけない場所。まして抜いたりしたら、あとで事情のい

    かんを問わず切腹ものだ。

    「これは一大事。担当者に報告して参る」

    要領のいいのは、さっそくその場をはなれ、便所に入る。巻きぞえにならぬのが一番だ。便所はたちまち一杯。だれも入ったきり出てこない。本当に便所に入りたい者は、遠くまで歩いてゆく。

    それでも、やっと城中警備の担当者のところへ報告がもたらされる。担当者は飛びあがり、気を静めるために、処世訓の狂歌を書いた紙をふところから出して読む。

    〈世の中は、さようでござる、ごもっとも、なにとござるか、しかと存ぜず〉

    三回くりかえし、おもむろに言う。

    「さようでござるな。一大事とは、まことにごもっとも。なにがどうなっているのでござるか。しかし、なにしろ前例なきこと、前任者からも聞いておらず、しかと存ぜぬしだいでござる」

    「そんな場合ではないようでござるが」

    「なにをおっしゃる。みどもは老中に属する役職。貴殿の指示で軽々しく動くわけには参らぬ。まず老中の指示をいただいて参れ」

    だれかが別な係の前へ、ゆっくりとあらわれる。殿中でかけ足は禁止なのだ。それを破ると、あとで問題にされる。

    「早くなんとかすべきではござらぬか」

    「みどもは儀式の時に限る警備係。賊にたちむかってもいいが、これが前例になる。その責任は貴殿にあるが、よろしいか」

    「いや、それは困り申す。御門番の一隊、お庭番などは動いてくれぬものであろうか」

    「御門番の一隊を殿中に入れた前例はござらぬ。お庭番は上さまじきじきの命でなければ動かぬ。貴殿、上さまに伝えたらいかが」

    「その取次ぎ係が見当たらぬのでござる。上さまはお昼寝の時刻なれば、あ、あ、なんだか急に腹ぐあいが悪くなり申した。下城して休養いたすゆえ、あとはよしなに」

    かかりあいを恐れ、みんな逃げ腰。いつも逃げまわっていた次郎吉、表舞台にあらわれたとたん立場が逆になった。刀を振りまわしながら進むと、奥のほうに広間があった。一段と高いところへすわってみる。将軍以外にすわれないところだ。それを見た者、大声をあげかけ、あ

    わてて口を押える。大声禁止の広間なのだ。それに、飛びかかってふすまに穴でもあけたら、首がとぶ。

    「大変でござる、大変でござる」

    と小声でつぶやきながら、どこへともなく去ってゆく。その声を聞いても、だれも出てこない。ただただ時が流れてゆく。

    次郎吉としては、こと志とちがい、張り合い抜けだった。あたりにはだれもいなくなった。押入れに入り、そこから天井裏にかくれ、しばらく休む。

    これからどうしたものだろう。大奥へ行ってみるか。女ばかりの住居は、大名家では中奥だが、将軍の江戸城では大奥と称する。しかし、大奥ほどぶきみなところはないという。年に一度の大掃除に、男と女が顔を合わさぬよう、厳重な監督のもとに鳶の人足が入るが、出てくる

    時には人数がへっている。このうわさを次郎吉は、火消しにいる時に聞いた。女たちにつかまり、おもちゃにされたあげく、消されてしまうらしい。そんな死にざまでは、ねずみ小僧の印象を悪くする。

    ひとまず帰るとするか。天井裏を移動し、玄関近くの座敷にあらわれる。そして、出あった相手に言う。

    「くせものはお庭のほうにかくれたようでござるぞ」

    「そうでござるか。貴殿、すまぬが御門番の一隊に知らせてくれぬか。お庭なら、御門番が出動してもかまわぬと存ずる」

    「かしこまってござる」

    次郎吉は御門にむかい、そのまま出てしまう。

    家に帰った次郎吉、さわぎの結果を待つが、ちっとも町のうわさにならぬ。みっともないので役人たちがだまっているのだろう。そのうち、幕府で大はばな人事異動があったらしいとわかるが、それで終り。万事うやむやになってしまったようだ。面白くない。

    彼は殿中でのさわぎを、おもしろおかしく物語にまとめた。それを持って草双紙の版元へ行く。

    「ねずみ小僧を主人公に、こういうものを書いた。売れると思うし、後世まで残るんじゃないかな。出版してもらいたい」

    草双紙屋の主人、それを読み、顔をしかめる。

    「こりゃあ、なんです。でたらめもいいところ。あまりにばかげてるので、お上も出版禁止にはしないでしょう。しかし、ねずみ小僧は庶民の偶像ですぜ。その印象をこんなふうにぶちこわしたら、わたしゃ、江戸っ子たちにぶんなぐられる。本にはできませんな。ねずみ小僧につ

    いては、ちゃんとしたものを書くよう、ある作者にたのんであります」

    せっかく書いたものは、目の前で破り捨てられた。次郎吉はがっかり。それから数日は、酒びたり。二日酔いつづきでごろごろしていると、そとで叫びながら走る声。

    「大変だあ。ねずみ小僧さまがつかまったそうだ」

    次郎吉は起きあがる。外出すると、どこでもそのうわさでもちきり。なんでも、浜町の松平宮内少輔くないしょうゆうの屋敷に忍びこみ、殿さまの寝所に近づき、護衛役の女たちにとっつかまり、町奉行所の者に引き渡されたという。

    なんということだ、と次郎吉はつぶやく。殿さまの寝所に金などあるわけがない。それに、そこが最も危険な場所。おれがつかまらなかったのは、そこを注意して避けたからだ。わざわざつかまりに行くようなもの

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