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小说站 > 历史军事 > ノルウェイの森-挪威的森林(日文版)

正文 第46节 文 / [日]村上春树

    直子は死に、緑は残っているのだ。栗子小说    m.lizi.tw直子は白い灰になり、緑は生身の人間として残っているのだ。

    僕は自分自身を穢れにみちた人間のように感じた。東京に戻っても、一人で部屋の中に閉じこもって何日かを過ごした。僕の記憶の殆んどは生者にではなく死者に結びついていた。僕が直子のためにとって置いたいくつかの部屋の鎧戸を下ろされ、家具は白い布に覆われ窓枠にはうっすらとほこりが積っていた。僕は一日の多くの部分をそんな部屋の中で過ごした。そして僕はキズキのことを思った。おいキズキ、お前はとうとう直子を手に入れたんだな、と僕は思った。まあいいさ、彼女はもともとお前のものだったんだ。結局そこが彼女の行くべき場所だったのだろう、たぶん。でもこの世界で、この不完全な生者の世界で、俺は直子に対して俺なりのベストを尽くしたんだよ。そして俺は直子と二人でなんとか新しい生き方をうちたてようと努力したんだよ。でもいいよ、キズキ。直子はお前にやるよ。直子はお前の方を選んだんだものな。彼女自身の心みたいに暗い森の奥で直子は首をくくったんだ。なあキズキ、お前は昔俺の一部を死者の世界にひきずりこんでいった。そして今、直子が俺の一部を死者の世界にひきずりこんでいった。ときどき俺は自分が博物館の管理人になったような気がするよ。誰一人訪れるものもないがらんとした博物館でね、俺は自身のためにそこの管理人をしているんだ。

    *

    東京に戻って四日目にレイコさんからの手紙が届いた。封筒には速達切手が貼ってあった。手紙の内容は至極簡単なものだった。あなたとずっと連絡がとれなくてとても心配している。電話をかけてほしい。朝の九時と夜の九時にこの電話番号の前で待っている。

    僕は夜の九時にその番号をまわしてみた。すぐにレイコさんが出た。

    「元気」と彼女が訊いた。

    「まずまずですね」と僕は言った。

    「ねえ、あさってにでもあなたに会いに行っていいかしら」

    「会いに来るって、東京に来るんですか」

    「ええ、そうよ。あなたと二人で一度ゆっくりと話がしたいの」

    「じゃあ、そこを出ちゃうんですか、レイコさんは」

    「出なきゃ会いに行けないでしょう」と彼女は言った。「そろそろ出てもいい頃よ。だってもう八年もいたんだもの。これ以上いたら腐っちゃうわよ」

    僕はうまく言葉が出てこなくて少し黙っていた。

    「あさっての新幹線で三時ニ十分に東京に着くから迎えに来てくれる私の顔はまだ覚えてるそれとも直子が死んだら私になんて興味なくなっちゃったかしら」

    「まさか」と僕は言った。「あさっての三時二十分に東京駅に迎えに行きます」

    「すぐわかるわよ。ギターケース持った中年女なんてそんなにいないから」

    たしかに僕は東京駅ですぐレイコさんをみつけることができた。彼女は男もののツイードのジャケットに白いズボンをはいて赤い運動靴をはき、髪をあいかわらず短くてところどころとびあがり、右手に茶色い革の旅行鞄を持ち、左手は黒いギターケースを下げていた。小说站  www.xsz.tw彼女は僕を見ると顔のしわをくしゃっと曲げて笑った。レイコさんの顔を見ると僕も自然に微笑んでしまった。僕は彼女の旅行鞄を持って中央線の乗り場まで並んで歩いた。

    「ねえワタナベ君、いつからそんなひどい顔してるそれとも東京では最近そういうひどい顔がはやってるの」

    「しばらく旅行してたせいですよ。あまりロクなもの食べなかったから」と僕は言った。「新幹線はどうでした」

    「あれひどいわね。窓開かないんだもの。途中でお弁当買おうと思ってたのにひどい目にあっちゃった」

    「中で何か売りに来るでしょう」

    「あのまずくて高いサンドイッチのことあんなもの飢え死にしかけた馬だって残すわよ。私ね、御殿場で鯛めしを買って食べたのが好きだったの」

    「そんなこと言ってると年寄り扱いされますよ」

    「いいわよ、私年寄りだもの」とレイコさんは言った。

    吉祥寺まで行く電車の中で、彼女は窓の外の武蔵野の風景を珍しそうにじっと眺めていた。

    「八年もたつと風景も違っているものですか」と僕は訊いた。

    「ねえワタナベ君。私が今どんな気持かわかんないでしょう」

    「怖くって怖くって気が狂いそうなのよ。どうしていいかわかんないのよ。一人でこんなところに放り出されて」とレイコさんは言った。「でも<気が狂いそう>って素敵な表現だと思わない」

    僕は笑って彼女の手を握った。「でも大丈夫ですよ。レイコさんはもう全然心配ないし、それに自分の力で出てきたんだもの」

    「私があそこを出られたのは私の力のせいじゃないわよ」とレイコさんは言った。「私があそこを出られたのは、直子とあなたのおかげなのよ。私は直子のいないあの場所に残っていることに耐えられなかったし、東京にきてあなたと一度ゆっくり話しあう必要があったの。だからあそこを出てきちゃったのよ。もし何もなければ、私は一生あそこにいることになったんじゃないかしら」

    僕は肯いた。

    「これから先どうするんですか、レイコさん」

    「旭川に行くのよ。ねえ旭川よ」と彼女は言った。「音大のとき仲の良かった友だちが旭川で音楽教室やっててね、手伝わないかって二、三年前から誘われてたんだけど、寒いところ行くの嫌だからって断ってたの。だってそうでしょ、やっと自由の身になって、行く先が旭川じゃちょっと浮かばれないわよ。あそこなんだか作りそこねた落とし穴みたいなところじゃない」

    「そんなひどくないですよ」僕は笑った。「一度行ったことあるけれど、悪くない町ですよ。ちょっと面白い雰囲気があってね」

    「本当」

    「うん、東京にいるよりはいいですよ、きっと」

    「まあ他に行くあてもないし、荷物ももう送っちゃったし」と彼女は言った。「ねえワタナベ君、いつか旭川に遊びに来てくれる」

    「もちろん行きますよ。栗子网  www.lizi.twでも今すぐ行っちゃうんですかその前に少し東京にいるでしょう」

    「うん。二、三日できたらゆっくりしていきたいのよ。あなたのところに厄介になっていいかしら迷惑かけないから」

    「全然かまいませんよ。僕は寝袋に入って押入れで寝ます」

    「悪いわね」

    「いいですよ。すごく広い押入れなんです」

    レイコさんは脚のあいだにはさんだギターケースを指で軽く叩いてリズムをとっていた。「私たぶん体を馴らす必要があるのよ、旭川に行く前に。まだ外の世界に全然馴染んでないから。かわらないこともいっぱいあるし、緊張もしてるし。そういうの少し助けてくれる私、あなたしか頼れる人いないから」

    「僕で良ければいくらでも手伝いますよ」と僕は言った。

    「私、あなたの邪魔をしてるんじゃないかしら」

    「僕のいったい何を邪魔しているんですか」

    レイコさんは僕の顔を見て、唇の端を曲げて笑った。そしてそれ以上何も言わなかった。

    吉祥寺で電車を降り、バスに乗って僕の部屋に行くまで、我々はあまりたいした話をしなかった。東京の街の様子が変ってしまったことや、彼女の音大時代の話や、僕が旭川に行ったときのことなんかをぽつぽつと話しただけだった。直子に関する話は一切出なかった。僕がレイコさんに会うのは十ヶ月ぶりだったが、彼女と二人で歩いていると僕の心は不思議にやわらぎ、慰められた。そして以前にも同じような思いをしたことがあるという気がした。考えてみれば直子と二人で東京の街を歩いていたとき、僕はこれとまったく同じ思いをしたのだ。かつて僕と直子がキズキという死者を共有していたように、今僕とレイコさんは直子という死者を共有しているのだ。そう思うと、僕は急に何もしゃべれなくなってしまった。レイコさんはしばらく一人で話していたが、僕が口をきかないことがわかると彼女も黙って、そのまま二人で無言のままバスに乗って僕の部屋まで行った。

    秋のはじめの、ちょうど一年前に直子を京都に訪ねたときと同じようにくっきりと光の澄んだ午後だった。雲は骨のように白く細く、空はつき抜けるように高かった。また秋が来たんだな、と僕は思った。風の匂いや、光の色や、草むらに咲いた小さな花や、ちょっとした音の響き方が、僕にその到来を知らせていた。季節が巡ってくるごとに僕と死者たちの距離はどんどん離れていく。キズキは十七のままだし、直子は二十一のままなのだ。永遠に。

    「こういうところに来るとホッとするわね」バスを降り、あたりを見まわしてレイコさんは言った。

    「何もないところですからね」と僕は言った。

    僕は裏口から庭に入って離れに案内するとレイコさんはいろんなものに感心してくれた。

    「すごく良いところじゃない」と彼女は言った。「これみんなあなたが作ったのこういう棚やら机やら」

    「そうですよ」と僕は湯をわかしてお茶を入れながら言った。

    「けっこう器用なのね、ワタナベ君。部屋もずいぶんきれいだし」

    「突撃隊のおかげですね。彼が僕を清潔好きにしちゃったから。でもおかげで大家さんは喜んでますよ。きれいに使ってくれるって」

    「あ、そうそう。大家さんに挨拶してくるわね」とレイコさんは言った。「大家さんお庭の向うに住んでるでしょ」

    「挨拶挨拶なんてするんですか」

    「あたり前じゃない。あなたのところに変な中年女が転がりこんでギターを弾いたりしたら大家さんだって何かと思うでしょこういうのは先にきちんとしといた方がいいの。そのために菓子折りだってちゃんと持ってきたんだから」

    「ずいぶん気がきくんですねえ」と僕は感心して言った。

    「年の功よ。あなたの母方の叔母で京都から来たってことにしとくから、ちゃんと話をあわせといてよ。でもアレね、こういう時、年が離れてると楽だわね。誰も変な風に疑わないから」

    彼女が旅行鞄から菓子折りを出して行ってしまうと、僕は縁側に座ってもう一杯お茶を飲み、猫と遊んだ。レイコさんは二十分くらい戻ってこなかった。彼女は戻ってくると旅行鞄から煎餅の缶を出して僕へのおみやげだと言った。

    「二十分もいったい何話してたんですか」と僕は煎餅をかじりながら訊いてみた。

    「そりゃもちろんあなたのことよ」と彼女は猫を抱きあげ頬ずりして言った。「きちんとしてるし、真面目な学生だって感心してたわよ」

    「僕のことですか」

    「そうよ、もちろんあなたのことよ」とレイコさんは笑って言った。そして僕のギターをみつけて手にとり、少し調弦してからカルロスジョビンのデサフィナードを弾いた。彼女のギターを聴くのは久しぶりだったが、それは前と同じように僕の心をあたためてくれた。

    「あなたギター練習してるの」

    「納屋に転がってたのを借りてきて少し弾いてるだけです」

    「じゃ、あとで無料レッスンしてあげるわね」とレイコさんは言ってギターを置き、ツイードの上着を脱いで縁側の柱にもたれ、煙草を吸った。彼女は上着の下にマドラスチェックの半袖のシャツを着ていた。

    「ねえ、これこれ素敵なシャツでしょう」とレイコさんが言った。

    「そうですね」と僕も同意した。たしかにとても洒落た柄のシャツだった。

    「これ、直子のなのよ」とレイコさんは言った。「知ってる直子と私って洋服のサイズ殆んど一緒だったのよ。とくにあそこに入った頃はね。そのあとであの子少し肉がついちゃてサイズが変わったけれど、それでもだいたい同じって言ってもいいくらいだったのよ。シャツもズボンも靴も帽子も。ブラジャーくらいじゃないかしら、サイズが違うのは。私なんかおっばいないも同然だから。だから私たちいつも洋服とりかえっこしてたのよ。というか殆んど二人で共有してたようなものね」

    僕はあらためてレイコさんの体を見てみた。そう言われてみればたしかに彼女の背格好は直子と同じくらいだった。顔のかたちやひょろりと細い手首なんかのせいで、レイコの方が直子よりやせていて小柄だという印象があったのだが、よく見てみると体つきは意外にがっしりとしているようでもあった。

    「このズボンも上着もそうよ。全部直子の。あなたは私が直子のものを身につけてるの見るの嫌」

    「そんなことないですよ。直子だって誰かに着てもらっている方が嬉しいと思いますね。とくにレイコさんに」

    「不思議なのよ」とレイコさんは言って小さな音で指を鳴らした。「直子は誰にあてても遺書を書かなかったんだけど、洋服のことだけはちゃんと書き残していったのよ。メモ用紙に一行だけ走り書きして、それが机の上に置いてあったの。洋服は全部レイコさんにあげて下さいって。変な子だと思わない自分がこれから死のうと思ってるときにどうして洋服のことなんか考えるのかしらね。そんなのどうだっていいじゃない。もっと他に言いたいことは山ほどあったはずなのに」

    「何もなかったのかもしれませんよ」

    レイコさんは煙草をふかしながらしばらく物思いに耽っていた。「ねえ、あなた、最初からひとつ話を聞きたいでしょう」

    「話して下さい」と僕は言った。

    「病院での検査の結果がわかって、直子の病状は一応今のところ回復しているけれど今のうちに根本的に集中治療しておいた方があとあとのために良いだろうってことになって、直子はもう少し長期的にその大阪の病院に移ることになったの。そこまではたしか手紙に書いたわよね。たしか八月の十日前後に出したと思ったけど」

    「その手紙は読みました」

    「八月二十四日に直子のお母さんから電話がかかってきて、直子が一度そちらに行きたいと言っているのだが構わないだろかと言うの。自分で荷物も整理したいし、私とも当分会えないから一度ゆっくり話もしたいし、できたら一泊くらいできないかっていうことなの。私の方は全然かまいませよって言ったの。私も直子にはすごく会いたかったし、話したかったし。それで翌日の二十五日に彼女はお母さんと二人でタクシーに乗ってやってきたの。そして私たち三人で荷物の整理をしたわけ。いろいろ世間話をしながら。夕方近くになると直子はお母さんにもう帰っていいわよ、あと大丈夫だからって言って、それでお母さんはタクシーを呼んでもらって帰っていったの。直子はすごく元気そうだったし、私もお母さんもそのとき全然気にもしなかったのよ。本当はそれまで私はすごく心配してたのよ。彼女はすごく落ちこんでがっくりしてやつれてるんじゃないかなって。だてああいう病院の検査とか治療ってずいぶん消耗するものだってことを私はよく知ってるからね、それで大丈夫かなあって心配してたわけ。でも私ひと目見て、ああこれならいいやって思ったの。顔つきも思ったより健康そうだったし、にこにこして冗談なんかも言ってたし、しゃべり方も前よりずっとまともになってたし、美容院に行ったんだって新しい髪型を自慢してたし、まあこれならお母さんがいなくて私と二人でも心配ないだろうって思ったわけ。ねえレイコさん、私この際だから

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