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小说站 > 历史军事 > ノルウェイの森-挪威的森林(日文版)

正文 第45节 文 / [日]村上春树

    第三に直子にはそのことを黙っていて下さい。栗子小说    m.lizi.twもし彼女に何か言わなくてはならないような状況になったとしたら、そのときは私とあなたの二人で良策を考えましょう。だから今はとりあえずあの子には黙っていることにしましょう。そのことは私にまかせておいて下さい。

    第四にあなたはこれまでずいぶん直子の支えになってきたし、もしあなたが彼女に対して恋人としての愛情を抱かなくなったとしても、あなたが直子にしてあげられることはいっぱいあるのだということです。だから何もかもそんなに深刻に考えないようにしなさい。私たちは私たちというのは正常な人と正常ならざる人をひっくるめた総称です不完全な世界に住んでいる不完全な人間なのです。定規で長さを測ったり分度器で角度を測ったりして銀行預金みたいにコチコチと生きているわけではないのです。でしょう

    私の個人的感情を言えば、緑さんというのはなかなか素敵な女の子のようですね。あなたが彼女に心を魅かれるというのは手紙を読んでいてもよくわかります。そして直子に同時に心を魅かれるというのもよくかわります。そんなことは罪でもなんでもありません。このただっ広い世界にはよくあることです。天気の良い日に美しい湖にボートを浮かべて、空もきれいだし湖も美しいと言うのと同じです。そんな風に悩むのはやめなさい。放っておいても物事は流れるべき方向に流れるし、どれだけベストを尽くしても人は傷つくときは傷つくのです。人生とはそういうものです。偉そうなことを言うようですが、あなたもそういう人生のやり方をそろそろ学んでいい頃です。あなたはときどき人生を自分のやり方にひっぱりこもうとしすぎます。精神病院に入りたくなかったらもう少し心を開いて人生の流れに身を委ねなさい。私のような無力で不完全な女でもときには生きるってなんて素晴らしいんだろうと思うのよ。本当よ、これだからあなただってもっともっと幸せになりなさい。幸せになる努力をしなさい。

    もちろん私はあなたと直子がハッピーエンディングを迎えられなかったことは残念に思います。しかし結局のところ何が良かったなんて誰にかわるというのですかだからあなたは誰にも遠慮なんかしないで、幸せになれると思ったらその機会をつかまえて幸せになりなさい。私は経験的に思うのだけれど、そういう機会は人生に二回か三回しかないし、それを逃すと一生悔やみますよ。

    私は毎日誰に聴かせるともなくギターを弾いています。これもなんだかつまらないものですね。雨の降る暗い夜も嫌です。いつかまたあなたと直子のいる部屋で葡萄を食べながらギターを弾きたい。

    ではそれまで。

    六月十七日

    石田鈴子       」

    十一

    直子が死んでしまったあとでも、レイコさんは僕に何度も手紙を書いてきて、それは僕のせいではないし、誰のせいでもないし、それは雨ふりのように誰にもとめることのできないことなのだと言ってくれた。しかしそれに対して僕は返事を書かなかった。なんていえばいいのだそれにそんなことはもうどうでもいいことなのだ。直子はもうこの世界に存在せず、一握りの灰になってしまったのだ。小说站  www.xsz.tw

    八月の末にひっそりとした直子の葬儀が終わってしまうと、僕は東京に戻って、家主にしばらく留守にしますのでよろしくと挨拶し、アルバイト先に行って申し訳ないが当分来ることができないと言った。そして緑に今何も言えない、悪いと思うけれどもう少し待ってほしいという短い手紙を書いた。それから三日間毎日、映画館をまわって朝から晩まで映画を見た。東京で封切られている映画を全部観てしまったあとで、リュックに荷物をつめ、銀行預金を残らずおろし、新宿駅に行って最初に目についた急行列車に乗った。

    いったいどこをどういう風にまわったのか、僕には全然思い出せないのだ。風景や匂いや音はけっこうはっきりと覚えているのだが、地名というものがまったく思いだせないのだ順番も思いだせない。僕はひとつの町から次の町へと列車やバスで、あるいは通りかかったトラックの助手席に乗せてもらって移動し、空地や駅や公園や川辺や海岸やその他眠れそうなところがあればどこにでも寝袋を敷いて眠った。交番に泊めてもらったこともあるし、墓場のわきで眠ったこともある。人通りの邪魔にならず、ゆっくり眠れるところならどこだってかまわなかった。僕は歩き疲れた体を寝袋に包んで安ウィスキーごくごくのんで、すぐ寝てしまった。親切な町に行けば人々は食事を持ってきてくれたたり、蚊取線香を貸してくれたりしたし、不親切な町では人々は警官を呼んで僕を公園から追い払わせた。どちらにせよ僕にとってはどうでもいいことだった。僕が求めていたのは知らない町でぐっすり眠ることだけだった。

    金が乏しくなると僕は**労働を三、四日やって当座の金を稼いた。どこにでも何かしらの仕事はあった。僕はどこにいくというあてもなくただ町から町へとひとつずつ移動していった。世界は広く、そこには不思議な事象や奇妙な人々充ち充ちていた。僕は一度緑に電話をかけてみた。彼女の声がたまらく聞きたかったからだ。

    「あなたね、学校はもうとっくの昔に始まってんのよ」と緑は言った。「レポート提出するやつだってけっこうあるのよ。どうするのよ。いったいあなたこれでも三週間の音信不通だったのよ。どこにいて何をしてるのよ」

    「わるいけど、今は東京に戻れないんだ。まだ」

    「言うことはそれだけなの」

    「だから今は何も言えないんだよ、うまく。十月になったら――」

    緑は何も言わずにがっちゃんと電話を切った。

    僕はそのまま旅行をつづけた。ときどき安宿に泊まって風呂に入り髭を剃った。鏡を見ると本当にひどい顔をしていた。日焼けのせいで肌はかさかさになり、目がくぼんで、こけた頬にはわけのわからないしみや傷がついていた。ついさっき暗い穴の底から這いあがってきた人間のとうに見えたが、それはよく見るとたしかに僕の顔だった。

    僕がその頃歩いていたの山陰の海岸だった。鳥取か兵庫の北海岸かそのあたりだった。海岸に沿って歩くのは楽だった。砂浜のどこかには必ず気持よく眠れる場所があったからだ。流木をあつめてきた火をし、魚屋で買ってきた干魚をあぶって食べたりすることもできた。そしてウィスキーを飲み、波の音に耳を澄ませながら直子のことを思った。小说站  www.xsz.tw彼女が死んでしまってもうこの世界に存在しないというのはとても奇妙なことだった。僕にはその事実がまだどうしても呑みこめなかった。僕にはそんなことはとても信じられなかった。彼女の棺のふたに釘を打つあの音まで聞いたのに、彼女が無に帰してしまったという事実に僕はどうしても順応することができずにいた。

    僕はあまりにも鮮明に彼女を記憶しすぎていた。彼女が僕のベニスをそっと口で包み、その髪が僕の下腹に落ちかかっていたあの光景を僕はまだ覚えていた。そのあたたかみや息づかいや、やるせない射精の感触を僕は覚えていた。僕はそれをまるで五分前のできごとのようにはっきり思い出すことができた。そしてとなりに直子がいて、手をのばせばその体に触れることができるように気がした。でも彼女はそこにいなかった。彼女の**はもうこの世界のどこにも存在しないのだ。

    僕はどうしても眠れない夜に直子のいろんな姿を思いだした。思い出さないわけにはいかなかったのだ。僕の中には直子の思い出があまりにも数多くつまっていたし、それらの思い出はほんの少しの隙間をもこじあけて次から次へ外にとびだそうとしていたからだ。僕にはそれらの奔出を押しとどめることはとてもできなかった。

    僕は彼女があの雨の朝に黄色い雨合羽を着て鳥小屋を掃除したり、えさの袋を運んでいた光景を思い出した。半分崩れたバースデーケーキと、あの夜僕のシャツを濡らした直子の涙の感触を思いだした。そうあの夜も雨が降っていた。冬には彼女はキャメルのオーバーコートを着て僕の隣りを歩いていた。彼女はいつも髪どめをつけて、いつもそれを手で触っていた。そして透きとおった目でいつも僕の目をのぞきこんでいた。青いガウンを着てソファーの上で膝を折りその上に顎をのせていた。

    そんな風に彼女のイメージは満ち潮の波のように次から次へと僕に打ち寄せ、僕の体を奇妙な場所へと押し流していった。その奇妙な場所で、僕は死者とともに生きた。そこでは直子が生きていて、僕と語りあい、あるいは抱きあうこともできた。その場所では死とは生をしめくくる決定的な要因ではなかった。そこで死とは生を構成する多くの要因のうちのひとつでしかなかった。直子は死を含んだままそこで生きつづけていた。そして彼女は僕にこう言った。「大丈夫よ、ワタナベ君、それはただの死よ。気にしないで」と。

    そんな場所では僕は哀しみというものを感じなかった。死は死であり、直子は直子だからだった。ほら大丈夫よ、私はここにいるでしょうと直子は恥ずかしそうに笑いながら言った。いつものちょっとした仕草が僕の心をなごませ、癒してくれた。そして僕はこう思った。これが死というものなら、死も悪くないものだな、と。そうよ、死ぬのってそんなたいしたことじゃないのよ、と直子は言った。死なんてただの死なんだもの。それに私はここにいるとすごく楽なんだもの。暗い波の音のあいまから直子はそう語った。

    しかしやがて潮は引き、僕は一人で砂浜に残されていた。僕は無力で、どこにも行けず、哀しみが深い闇となって僕を包んでいた。そんなとき、僕はよく一人で泣いた。泣くというよりまるで汗みたいに涙がぼろぼろとひとりでにこぼれ落ちてくるのだ。

    キズキが死んだとき、僕はその死からひとつのことを学んだ。そしてそれを諦観として身につけた。あるいは身につけようと思った。それはこういうことだった。

    「死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ」

    たしかにそれは真実であった。我々は生きることによって同時に死を育くんでいるのだ。しかしそれは我々が学ばねばならない真理の一部でしかなかった。直子の死が僕に教えたのはこういうことだった。どのような心理をもってしても愛するものを亡くした哀しみを癒すことはできないのだ。どのような真理も、どのような誠実さも、どのような強さも、どのような優しさも、その哀しみを癒すことはできないのだ。我々はその哀しみを哀しみ抜いて、そこから何かを学びとることしかできないし、そしてその学びとった何かも、次にやってくる予期せぬ哀しみに対しては何の役にも立たないのだ。僕はたった一人でその夜の波音を聴き、風の音に耳を澄ませながら、来る日も来る日もじっとそんなことを考えつづけていた。ウィスキーを何本も空にし、パンをかじり、水筒の水を飲み、髪を砂だらけにしながら初秋の海岸をリュックを背負って西へ西へと歩いた。

    ある風の強い夕方、僕は廃船の陰で寝袋にくるまって涙を流していると若い漁師がやってきて煙草をすすめてくれた。僕はそれを受けとって十何ヶ月かぶりに吸った。どうして泣いているのかと彼は僕に訊いた。母が死んだからだと僕は殆んど反射的に嘘をついた。それで哀しくてたまらなくて旅をつづけているのだ、と。彼は心から同情してくれた。そして家から一升瓶とグラスをふたつ持ってきてくれた。

    風の吹きすさぶ砂浜で、我々は二人で酒を飲んだ。俺も十六で母親をなくしたとその漁師は言った。体がそんなに丈夫ではなかったのに朝から晩まで働きづめで、それで身をすり減らすように死んだ、と彼は話した。僕はコップ酒を飲みながらぼんやりと彼の話を聞き、適当に相槌を打った。それはひどく遠い世界の話であるように僕には感じられた。それがいったいなんだっていうんだと僕は思った。そして突然この男の首を締めてしまいたいような激しい怒りに駆けられた。お前の母親がなんだっていうんだ俺は直子を失ったんだあれはど美しい**がこの世界から消え去ってしまったんだぞそれなのにどうしてお前はそんな母親の話なんてしているんだ

    でもそんな怒りはすぐに消え失せてしまった。僕は目を閉じて、際限のない漁師の話を聞くともなくぼんやりと聞いていた。やがて彼は僕にもう飯は食べたかと訊ねた。食べてないけれど、リュックの中にパンとチーズとトマトとチョコレートが入っていると僕は答えた。昼には何を食べたのかと彼が訊いたので、パンとチーズとトマトとチョコレートだと僕は答えた。すると彼はここで待ってろよと言ってどこかに行ってしまった。僕は止めようとしたけれど、彼は振りかえもせずにさっさと闇の中に消えてしまった。

    僕は仕方なく一人でコップ酒を飲んでいた。砂浜には花火の紙屑が一面に広がり、波はまるで怒り狂ったように轟音を立てて波打ち際で砕けていた。やせこけた犬が尾を振りながらやてきて何か食べものはないかと僕の作った小さなたき火のまわりをうろうろしていたが、何もないとわかるとあきらめて去っていった。

    三十分ほどあとでさっきの若い漁師が寿司折をふたつと新しい一升瓶を持って戻ってきた。これ食えよ、と彼は言った。下の方のは海苔巻きと稲荷だから明日のぶんにしろよ、と彼は言った。彼は一升瓶の酒を自分のグラスに注ぎ、僕のグラスにも注いた。僕は礼を言ってたっぷりと二人分はある寿司を食べた。それからまた二人で酒を飲んだ。もうこれ以上飲めないというところまで飲んでしまうと、彼は自分の家に来て泊まれと僕に言ったが、ここで一人で寝ている方がいいと言うと、それ以上は誘わなかった。そして別れ際にポケットから四つに折った五千円札を出して僕のシャツのポケットにつっこみ、これで何か栄養のあるものでも食え、あんたひどい顔してるから、と言った。もう十分よくしてもらったし、これ以上金までもらうわけにはいかないと断ったが、彼は金を受けとろうとはしなかった。仕方なく礼を言って僕はそれを受け取った。

    漁師が行ってしまったあとで、僕は高校三年のとき初めて寝たガールフレンドのことをふと考えた。そして自分が彼女に対してどれほどひどいことをしてしまったかと思って、どうしようもなく冷えびえとした気持になった。僕は彼女が何をどう思い、そしてどう傷つくかなんて殆んど考えもしなかったのだ。そして今まで彼女のことなんてロクに思い出しもしなかったのだ。彼女はとても優しい女の子だった。でもその当時の僕はそんな優しさをごくあたり前のものだと思って、殆んど振り返りもしなかったのだ。彼女は今何をしているだろうか、そして僕を許してくれているのだろうか、と僕は思った。

    ひどく気分がわるくなって、廃船のわきに僕は嘔吐した。飲み過ぎた酒のせいで頭が痛み、漁師に嘘をついて金までもらったことで嫌な気持になった。そろそろ東京に戻ってもいい頃だなと僕は思った。いつまでもいつまでも永遠にこんなことつづけているわけにはいかないのだ。僕は寝袋を丸めてリュックの中にしまい、それをかついで国鉄の駅まで歩き、今から東京に帰りたいのだがどうすればいいだろうと駅員に訊いてみた。彼は時刻表を調べ、夜行をうまくのりつげば朝に大阪に着けるし、そこから新幹線で東京に行けると教えてくれた。僕は礼を言って、男からもらった五千円札で東京までの切符を買った。列車を待つあいだ、僕は新聞を買って日付を見てみた。一九七○年十月二日とそこにあった。ちょうど一ヶ月旅行をつづけていたわけだった。なんとか現実の世界に戻らなくちゃな、と僕は思った。

    一ヶ月の旅行は僕の気持はひっぱりあげてはくれなかったし、直子の死が僕に与えた打撃をやわらげてもくれなかった。僕は一ヶ月前とあまり変りない状態で東京に戻った。緑に電話をかけることすらできなかった。いったい彼女にどう切り出せばいいのかがわからなかった。なんて言えばいいのだ全ては終わったよ、君と二人で幸せになろ――そう言えばいいのだろうかもちろん僕にはそんなことは言えなかった。しかしどんな風に言ったところで、どんな言い方をしたところで、結局語るべき事実はひとつなのだ。

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