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小说站 > 历史军事 > 殿さまの日(日文版)

正文 第12节 文 / [日]星新一

    ふと頭に浮んだことがある。小说站  www.xsz.tw松蔵は幕府の隠密ではないかもしれない」

    「これは新説。なんだというのですか」

    「かたき討ちということもあるぞ。松蔵の肉親が、この藩の家臣、あるいは殿という場合だってある、そのだれかに殺された。そのうらみをはらそうとして、目立たぬようこの藩に住みつき、それとなく機会をうかがっているのかもしれない」

    「しかし、職人なんですよ」

    「だから、なおさらやっかいだ。やつが武士なら、堂々と名乗って切りかかるだろう。しかし、その実力のない職人なのだ。卑怯だろうがなんだろうが、目的のためには手段を選ばない。どんな巧妙な方法を使うか、予測できませんぞ」

    人事担当の家老は、腕組みする。

    「わたしの頭を痛める意見が出ましたな。松蔵を呼び、親のかたきを討つのなら手伝って本懐をとげさせてやるともいえない。家臣を見殺しにすることになる。松蔵だって言わないだろう。もし言ったら、藩が当人をひそかに逃がすだろうと思ってるにちがいない。だれがねらわれ

    てるのやら、調べようがないから困る。わかれば手の打ちようもあるのだが。かたきとねらわれるような身に覚えのある者は申し出よ、との指示を出すか。だれも申し出ないでしょうな。周囲から変な目で見られ、昇進にもさしつかえる。ひそかに調べるよう心がけてはみるが、あ

    まり期待しないでいただきたい。時間がかかる。やれやれ、やっかいな仕事をしょいこんだものだ」

    そうこうするうち、松蔵をめぐってひとつの事件が突発した。そのことについて、町奉行から報告がなされた。

    「部下に命じ、ひきつづき松蔵の動きをそっと観察させていたのですが、昨日、こんなことがおこった。川ぞいの道を、松蔵が悲鳴をあげながら逃げまわっている。追いかけているのは、他藩の浪人らしき男。そこで部下は、思わず飛び出し、松蔵を助けて浪人を切り殺してしまっ

    た」

    「殺してしまったと」

    「それは仕方ありません。領民を守るのが藩の家臣の役目。また、部下には松蔵に隠密の疑いがあるとは言ってなかったのです。腕のいい庭師だから、他藩からさそいの手がのびるかもしれない。その防止のため、そっと見張れと言ってあった。松蔵がやられたほうがよかったのか

    どうか。この問題となると議論はきりがありません。浪人を殺してしまったという事実があるだけです。いうまでもなく、その浪人の死体を調べてみましたが、身もとを示すものは、なにもなしです」

    「いけどりにできればよかったのだがな」

    「いまさら、しようがありませんよ。松蔵は大いに感謝しています。命を助けられたのだから当然のことですがね。しかし、なにごとだと聞いても、答えは要領をえません。川で釣りをしていたら、因縁をつけて切りかかってきたとのことです。話はそれだけです。松蔵の話が事実

    なのかうそなのか、浪人が死んではたしかめようがない。あの浪人、凶暴性のある気ちがいだったのかどうかも」

    「その浪人、松蔵にうらみをいだいてやってきたのではないかな。松蔵のほうがねらわれる身だったとも考えられる。妻と不義をしたので、成せい敗ばいしてやろうと、浪人に身をやつしてたずねまわっていたのかも」

    「ここのと同一人かどうかは不明だが、江戸から松蔵が失踪した。その原因がわからない限り、なんともいえない。命をねらわれるようなうらみを買っているとなると、本人も絶対に言わぬだろうし」

    外交と儀礼担当の家老が口を出す。栗子网  www.lizi.tw

    「薬草を飲みつづけて妙な気分なのだが、わたしの隠密についての知識によると、こうも想像できる。松蔵という隠密、使命をおびてここに住みついた。しかし、いごこちがよく、家庭もでき、任務をおろそかにした。そういう場合、江戸からべつな隠密がやってきて、処分するら

    しいのだ」

    「それは、ありうることだな。いつかの金と人情による買収工作が成功し、心がこっちに傾いたということになるな。今回は命を助けてやり、ますますいい結果になる。隠密だったとしても、わが藩のためになる人物だ。これからは扱いを変え、もっと大事にしなければなるまい」

    「いやいや、必ずしもそうとは安心できぬ。隠密となると、裏の裏まで計画してとりかかるものかもしれない。この一件、松蔵への当藩の警戒心をゆるめさせるための、芝居だったとも考えられるぞ。あの浪人、わずかな金に目がくらみ、その犠牲にされたのかもしれない。身もと

    不明だなんて、うまくできすぎている」

    「ちょっと待ってくれ。さっき、わが藩に寝がえった隠密だから、大事にすべきだとの説が出たが、それはちがうぞ。幕府を裏切った隠密ということになる。その松蔵をわが藩が守ってやるとなると、幕府の心証がはなはだしく悪くなる」

    「そうなると、早く松蔵を切ったほうがいいことになるな。しかし、あいつ、武芸がどれぐらいできるのだろう。だれかに切りかからせてみるか。だめだろうな。武芸の達人だったら、ためすために切りかかったのだと察して、平然としているだろう。本気で切りかかって、松蔵が

    ただの庭師だったら、首が飛んで終り。危険な賭かけであること、これまでくりかえした議論に戻る。また、武芸がまるでできない隠密だってあるだろうし」

    城代家老が言う。

    「いいかげんにしてくれ。きりがない。混乱するばかりで、わたしの頭もおかしくなりかけてきた。二日ほど休んで、冷静な気分になってから、あらためて相談しよう」

    つづいて、松蔵に関して、またひとつ報告が入った。旅の武士が道ばたで松蔵に話しかけ、しばらく話しあい、歩み去ったと。町奉行はそれを話し、城代の指示をあおいだ。

    「どういたしましょう」

    「なにを話しあったというのだ」

    「松蔵のいうところによると、植木の手入れ法を聞かれたので教えたのだとのことですが、どこまで本当なのやら」

    防備担当の家老が言う。

    「その武士を追いかけていって、切り殺すべきだと思う。幕府に報告がとどけられてしまっては手おくれになる」

    「わが藩に好意的な報告という場合だってあるぞ。また、殺してしまっては、なぞは解決されずに残る。うむをいわさず殺して、あとで他藩の身分ある武士とわかったら、ことがこじれる」

    「その武士をていねいに呼びとめ、いろいろ聞いたらどうであろうか」

    外交と儀礼担当の家老が言う。

    「みどもは幕府の役人だと名乗られたら、それ以上どうしようもない。わたしの隠密についての知識によると、隠密どうしの連絡は、すべて口頭でなされるとのことだ。密書など持っていたら、言いのがれができないからな。だから、所持品を徹底的に調べても、なにも出てはこな

    いだろう」

    町奉行があせった口調で言う。小说站  www.xsz.tw

    「ぐずぐずしていると、その武士は関所を通って藩外に出てしまいますよ。手の届かないとこへ行ってしまうのですよ。どうします」

    「うむ。どうしたものかな。よし、こうしよう。町奉行の配下で、最も信用できる者をひとり、すぐ旅に出せ。そして、その武士のあとをつけさせるのだ。どこへ行くかをつきとめれば、手がかりがえられるぞ。うん。これはわれながら名案だ」

    その指示により、それがなされた。しかし、何日かして帰ってきた尾行者は、途中で見失ってしまったと報告した。町奉行は会議の席でそれを話した。

    「まことに残念なことです。旅の用意もそこそこに出発させたので、なにかと不便だったらしい。はかまがほころびたが、針と糸を持参してなかった。旅館でそのつくろいに手間どり、そのあいだに見失ってしまったとのことです」

    「なるほど。わたしの知識によると、それは隠密宿というものかもしれない。隠密たちが連絡をとりあうのに使う宿だ。主人もなかまだ。だから、わざとはかまをほころびさせ、そのあいだに逃がしたとも考えられる」

    防備担当の家老が言う。

    「本当に見失ったのかな。めんどうくさくなったので、切ってしまったのではないかな。あるいは、相手に気づかれ、てむかってきたので切り殺したのでは。切ったはいいが、死体を調べて、他藩のれっきとした武士とわかる。となると、藩に迷惑の及ぶのを防ぐため、その尾行者

    、自己の責任で見失ったと言いはることになるぞ」

    「たしかに、あの部下はお家を思う念が強いからな。ありえないとはいえぬ」

    迷いはじめる町奉行に、寺社奉行が言う。

    「いや、その武士にうまく言いくるめられ、買収されたとも考えられますよ。まじめな人物ほど、だまされやすい。そのすきにつけこまれ買収されたとなると、帰って事実を報告しにくい。見失ったとでも言うほか」

    「なにを言うのです。わたしの部下はそんな性格ではない」

    城代が言う。

    「貴殿の責任で断言できるか」

    「ええと、そうなると」

    「断言してもらったところで、見失ってしまってはどうにもならない。ああ、またもなぞのままだ。判定を下そうにも、そのもととなる材料が、いまに至るもなにもないのだ」

    「そこに隠密側の作戦があるのかもしれません。松蔵は一味のおとり。あいつに皆の注意が集中するようしむけておき、そのすきに、隠密仲間がもっと大きな仕事を進行させているのかもしれない。松蔵はただ目立つように、意味ありげに泳ぎ回っているだけです。現実にはなにも

    しなくていい。だから、われわれがいかに調べようとしても、なにも出てこないのです。こういう考え方はどうでしょう」

    「ううむ。ありえないこととはいえないな。専門の隠密ともなれば、それぐらいの作戦はたてるかもしれない。しかし、そのすきに、どのような大仕事をたくらんでいるというのだ」

    「そこまでは見当もつきません。わたしはただ可能性をのべたまでで」

    「いいかげんにしてくれ。不安だけが高まり、ますます泥沼にはまりこんでゆく」

    城代家老は悲鳴をあげた。

    そのつぎの会議の時、人事担当の家老がこんなことを言いはじめた。

    「いままでだれも発言しなかった、あることを思いついた。松蔵は隠密は隠密でも、幕府のそれではないのかもしれない」

    「またも新説が出ましたな。で、どこからの隠密だというのです」

    「ちょっと言いにくいことですが」

    「気をもたせないでくださいよ。重大問題なのですから」

    「つまりです、われらの殿に直属している隠密。殿は参勤交代によって、一年おきの江戸ぐらし。留守中の藩政のことが気にもなりましょう。おざなりの報告文書によらない、その実態を知りたくもなりましょう。留守中、目のとどかないのをいいことに、家臣たちがいいかげんな

    ことをやるかもしれない。その監視役を作りたくもなる。幕府の隠密の私的な小型版です。そのため、庭師を江戸でやとい、ここへ送りこんだのでは。松蔵が江戸を出てここに住みついたのには、なにか理由がなくてはならない」

    「ううむ」

    「殿だって、藩に金の余裕があるのかどうか、お知りになりたいでしょう。だいたい、今回のさわぎのもとは、幕府の役人に景気がいいそうでと声をかけられたという、殿の話です。本当にそう声をかけられたのかどうか、たしかめようがない。殿がご自分でその話を作り出し、わ

    れわれにかまをかけたのかもしれません。これまでの松蔵の報告をもとにです」

    みなはうなずく。あれこれ考えすぎると、かえって思考力が失われ、そうかもしれないと考えはじめると、なんだかそれが事実のように思えてくるのだ。

    「なるほど、なるほど。ありうることだな。殿がお城の庭を、しきりにほめておいでになる。いまにして思うと、松蔵をお城に自由に出入りさせよ、勝手に処分するな、との意味を含めた殿のお言葉だったともとれる」

    だれかが防備担当の家老に言う。

    「貴殿は、松蔵を切れ切れと、さかんに主張なさった。切っていたらえらいことでしたぞ。殿の帰国の時、どう説明するつもりでしたか」

    「いまさら、そうおっしゃるな。わたしの発言、殿にはぜひ内密にしておいていただきたい。おのおのがただって、松蔵に疑念をおっかぶせたではないか。わたしと大差ないことですぞ」

    だれかが思いついたように言う。

    「そういえば、松蔵と話した武士を追っていって、途中で見失ったと戻ってきたのがあったな。見失ったのでなく、つかまえて問いつめ、そのことを打ちあけられたのかもしれない。追っていった者、たしか江戸屋敷づとめの経験者だったはずだ。そういう事情となると、のみこみ

    が早いのではないかな。先日は買収されたのかもしれないとの意見が出たが、その逆、殿によろしくと買収をおこなったとも考えられるぞ。自分の昇進をよろしくお伝え下さいとね」

    町奉行が言う。

    「あいつが昇進するとなると、町奉行になる。わたしはどうなるのだ」

    「隠居を命じられるか、家老への昇格か、どっちかしかない。貴殿の才能がどう評価されるかの点にかかっている。もっとも、昇格となると、家老に空席がなくてはならない」

    最も年長の外交と儀礼担当の家老が言う。

    「わたしはまだまだご奉公できるぞ。しかし、あの薬草、こうなると飲みつづけたほうがいいようだな。松蔵が殿の隠密となると、毒であるわけがない。なんだか気力がでてきた。そうだ、松蔵は城代家老の辞職願の手紙を読んでいるぞ。そのことが殿のお耳に入れば、空席がそこ

    にできる」

    そのうち、寺社奉行が口を出す。

    「しかしですなあ、殿はご立派なかただ。隠密を使って監視するとは、家臣を信用なさっていないことになる。そんなことを、なさるとは思えない。わたしは、江戸においでの、正室とのあいだにできた世つぎである若君のつかわした隠密ではないかと思う。若君は、正式に相続な

    さるまで、藩には来られないのが幕府のきまり。しかし、やがては自分が領主となるのだから、その藩の実情について、とらわれない知識を持っておきたいとお考えになるのは当然だ。将来の藩政改革のための材料を集めておいでになるのかもしれない」

    「そうでなければ、やはり江戸にお住まいの、家督をいまの殿にゆずられて隠居なさっておいでの、先代の殿の隠密かもしれない。隠居したとはいっても、やはり藩のことは気になる。いまの殿に対して、こんなことでどうすると意見のひとつもなさりたいだろう。それには材料が

    いる。先代の殿はなかなかの名君でしたからな」

    話題が幕府という漠ばく然ぜんたるものから、身近で現実的なものへと移ったため、会議は活気をおびてきた。

    つぎの会議の時、町奉行が防備担当の家老に言った。

    「松蔵の監督は依然つづけているのですぞ。部下の報告によると、貴殿は松蔵に庭の手入れをやらせ、大金を払い、なにごとか長い時間にわたって話しこんだとか。これはよろしくない。自分の忠実さを殿か若君に伝えてくれるよう、買収しようとなさったのでしょう」

    「いや、決してそんなことはない。松蔵の正体は本当のところなんなのか、それを自分なりに調べようとしたまでのこと。買収だなんて、そんな卑劣なことはいたさぬ」

    「しかし、貴殿はさかんに松蔵を切れと主張なさっていた。その穴埋めをしておきたくもなるのではなかろうかな。いちおう、いまのお言葉を信じておきましょう。で、ご自分で調べてみて、なにか判明しましたか」

    「それがその、なにもわからぬ」

    疑心暗鬼の空気がしだいに濃くなる。会議が開かれるたびに、それは一段とひどくなる。

    「松蔵は、殿や若君のではなく、江戸家老のひとりがよこした隠密かもしれない。やがては城代家老となり、藩の実権をにぎろうと考え、いまの家老たちを失脚させる材料を集めさせているとも考えられる。ことのおこりは江戸からの手紙、殿の話ということにして江戸家老が作り

    あげたものかもしれない。とすると、また対策もちがってくる。われわれは力をあわせ、そのたくらみに当らなければならない。内輪で争いはじめたら、それこそ思うつぼです」

    「そうとわかれば、力をあわせましょう。しかし、そうだと判明したわけではないのですぞ。ことはもっと複雑かもしれない。ここの中奥においでのご側室と殿とのあいだのご子息も、いま江戸屋敷においでだ。ここのご側室は、殿のお気に入りだ。ご側室の父は、江戸屋敷で殿の

    おそばにつかえている。なにか想像したくなりませんか。ご側室、その父、ご側室のご子息、これらが組んで殿をたきつけると、なにがおこるか。ご正室とのあいだの若君をさしおいて、こちらを正式の世つぎになおしかねない。松蔵はその連絡係、中奥に入れる立場にある点が、

    どうも気になります」

    外交と儀礼担当の家老が言う。

    「お家騒動だな。となると、あの薬草、じゃま者を殺すための毒の作用を持つものとも考えられる。なんだか急に胸がむかついてきた」

    「いずれにせよ、これは大陰謀。殿の判断ひとつできまる賭けです。隠居なさっている先代まで抱きこみ、もしこれが成功したら、松蔵にとりいってた者は

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