「弱ることないよ。小说站
www.xsz.twそのうちにまた一人でなんとかやってみるから」
「頑張ってね」
「うん」
「私ってあまりセクシーじゃないのかな、存在そのものが」
「いや、そういう問題じゃないんだ」と僕は言った。「なんていうかな、立場の問題なんだよね」
「私ね、背中がすごく感じるの。指ですうっと撫でられると」
「気をつけるよ」
「ねえ、今からいやらしい映画観に行かないばりばりのいやらしいsと緑は言った。
僕と緑は鰻屋に入って鰻を食べ、それから新宿でも有数のうらさびれた映画館に入って、成人映画三本立てを見た。新聞を買って調べるとそこでしかsのをやっていなかったからだ。わけのわからない臭いのする映画館だった。うまい具合に我々が映画館に入ったときにそのsのが始まった。olのお姉さんと高校生の妹が何人かの男たちにつかまってどこかに監禁され、サディスティックにいたぶられる話だった。男たちは妹をレイプするぞと脅してお姉さんに散々ひどいことをさせるのだが、そうこうするうちにお姉さんは完全なマゾになり、妹の方はそういうのを目の前で逐一見せられているうちに頭がおかしくなってしまうという筋だった。雰囲気がやたら屈折して暗い上に同じようなことばかりやっているので、僕は途中でいささか退屈してしまった。
「私が妹だったらあれくらいで気が狂ったりしないわね。もっとじっと見てる」と緑は僕に言った。
「だろうね」と僕は言った。
「でもあの妹の方だけど、処女の高校生にしちゃオッパイが黒ずんでると思わない」
「たしかに」
彼女はすごく熱心に、食いいるようにその映画を見ていた。これくらい一所懸命見るなら入場料のぶんくらいは十分もとがとれるなあと僕は感心した。そして緑は何か思いつくたびに僕にそれを報告した。
「ねえねえ、凄い、あんなことやっちゃうんだ」とか、「ひどいわ。三人も一度にやられたりしたら壊れちゃうわよ」とか、「ねえワタナベ君。私、ああいうの誰かにちょっとやってみたい」とか、そんなことだ。僕は映画を見ているより、彼女を見ている方がずっと面白かった。
休憩時間に明るくなった場内を見まわしてみたが、緑の他には女の客はいないようだった。近くに座っていた学生風の若い男は緑の顔を見て、ずっと遠くの席に移ってしまった。
「ねえワタナベ君」と緑が訊ねた。「こういうの見てると立っちゃう」
「まあ、そりゃときどきね」と僕は言った。「この映画って、そういう目的のために作られているわけだから」
「それでそういうシーンが来ると、ここにいる人たちのあれがみんなピンと立っちゃうわけでしょ三十本か四十本、一斉にピンとそういうのって考えるとちょっと不思議な気しない」
そう言われればそうだな、と僕は言った。
二本目のはわりにまともな映画だったが、まともなぶん一本目よりもっと退屈だった。栗子小说 m.lizi.twやたら口唇性愛の多い映画で、フェラチオやクンニリングスやシックスティーナインをやるたびにぺちゃぺちゃとかくちゃくちゃとかいう擬音が大きな音で館内に響きわたった。そういう音を聞いていると、僕は自分がこの奇妙な惑星の上で生を送っていることに対して何かしら不思議な感動を覚えた。
「誰がああいう音を思いつくんだろうね」と僕は緑に言った。
「あの音大好きよ、私」
ペニスがヴァギナに入って往復する音というのもあった。そんな音があるなんて僕はそれまで気づきもしなかった。男がはあはあと息をし、女があえぎ、「いいわ」とか「もっと」とか、そういうわりにありふれた言葉を口にした。ベッドがきしむ音も聞こえた。そういうシーンがけっこう延々とつづいた。緑は最初のうち面白がって見ていたが、そのうちにさすがに飽きたらしく、もう出ようと言った。僕らは立ち上がって外に出て深呼吸した。新宿の町の空気がすがすがしく感じられたのはそれが初めてだった。
「楽しかった」と緑は言った。「また今度行きましょうね」
「何度見たって同じようなことしかやらないよ」と僕は言った。
「仕方なしでしょ、私たちだってずっと同じようなことやってるんだもの」
そう言われて見ればたしかにそのとおりだった。
それから僕らはまたどこかのバーに入ってお酒を飲んだ。僕はウィスキーを飲み、緑はわけのわからないカクテルを三、四杯飲んだ。店を出ると木のぼりしたいと緑が言いだした。
「このへんに木なんてないよ。それにそんなふらふらしてちゃ木になんてのぼれないよ」と僕は言った。
「あなたっていつも分別くさいこと言って人を落ちこませるのね。酔払いたいから酔払ってるのよ。それでいいんじゃない。酔払ったって木のぼりくらいできるわよ。ふん。高い高い木の上にのぼっててっぺんから蝉みたいにおしっこしてみんなにひっかけてやるの」
「ひょっとして君、トイレに行きたいの」
「そう」
僕は新宿駅の有料トイレまで緑をつれていって小銭を払って中に入れ、売店で夕刊を買ってそれを読みながら彼女が出てくるのを待った。でも緑はなかなか出てこなかった。十五分たって、僕が心配になってちょっと様子を見に行ってみようかと思う頃にやっと彼女が外に出てきた。顔色はいくぶん白っぽくなっていた。
「ごめんね。座ったままうとうと眠っちゃったの」と緑は言った。
「気分はどう」と僕はコートを着せてやりながら訊ねた。
「あまり良くない」
「家まで送るよ」と僕は言った。「家に帰ってゆっくり風呂にでも入って寝ちゃうといいよ。疲れてるんだ」
「家なんか帰らないわよ。今家に帰ったって誰もいないし、あんなところで一人で寝たくなんかないもの」
「やれやれ」と僕は言った。「じゃあどうするんだよ」
「このへんのラブホテルに入って、あなたと二人で抱きあって眠るの。栗子小说 m.lizi.tw朝までぐっすりと。そして朝になったらどこかそのへんでごはん食べて、二人で一緒に学校に行くの」
「はじめからそうするつもりで僕を呼びだしたの」
「もちろんよ」
「そんなの僕じゃなくて彼を呼び出せばいいだろう。どう考えたってそれがまともじゃないか。恋人なんてそのためにいるんだ」
「でも私、あなたと一緒いたいのよ」
「そんなことはできない」と僕はきっぱりと言った。「まず第一に僕は十二時までに寮に戻らないといけないんだ。そうしないと無断外泊になる。前に一回やってすごく面倒なことになったんだ。第二に僕だって女の子と寝れば当然やりたくなるし、そういうの我慢して悶々とするのは嫌だ。本当に無理にやっちゃうかもしれないよ。」
「私のことぶって縛ってうしろから犯すの」
「あのね、冗談じゃないんだよ、こういうの」
「でも私、淋しいのよ。ものすごく淋しいの。私だってあなたには悪いと思うわよ。何も与えないでいろんなこと要求ばかりして。好き放題言ったり、呼びだしたり、ひっぱりまわしたり、でもね、私がそういうことのできる相手ってあなたしかしないのよ。これまでの二十年間の人生で、私ただの一度もわかままきいてもらったことないのよ。お父さんもお母さんも全然とりあってくれなかったし、彼だってそういうタイプじゃないのよ。私がわがまま言うと怒るの。そして喧嘩になるの。だからこういうのってあなたにしか言えないのよ。そして私、今本当に疲れて参ってて、誰かに可愛いとかきれいだとか言われながら眠りたいの。ただそれだけなの。目がさめたらすっかり元気になって、二度とこんな身勝手なことあなたに要求しないから。絶対。すごく良い子にしてるから」
「そう言われても困るんだよ」と僕は言った。
「お願い。でないと私ここに座って一晩おいおい泣いてるわよ。そして最初に声かけてきた人と寝ちゃうわよ」
僕はどうしようもなくなって寮に電話をかけて永沢さんを呼んでもらった。そして僕が帰寮しているように操作してもらえないだろうかと頼んでみた。ちょっと女の子と一緒なんですよ、と僕は言った。いいよ、そういうことなら喜んで力になろうと彼は言った。
「名札をうまく在室の方にかけかえておくから心配しないでゆっくりやってこいよ。明日の朝俺の部屋の窓から入ってくりゃいい」と彼は言った。
「どうもすみません。恩に着ます」と僕は言って電話を切った。
「うまく行った」と緑は訊いた。
「まあ、なんとか」と僕は深いため息をついた。
「じゃあまだ時間も早いことだし、ディスコでも行こう」
「君疲れてるんじゃなかったの」
「こういうのなら全然大丈夫なの」
「やれやれ」と僕は言った。
たしかにディスコに入って踊っているうちに緑は少しずつ元気を回復してきたようだった。そしてウィスキーコークを二杯飲んで、額に汗をかくまでフロアで踊った。
「すごく楽しい」と緑はテーブル席でひと息ついて言った。「こんなに踊ったの久しぶりだもの。体を動かすとなんだか精神が解放されるみたい」
「君のはいつも解放されてるみたいに見えるけどね」
「あら、そんなことないのよ」と彼女はにっこりと首をかしげて言った。「それはそうと元気になったらおなかが減っちゃったわ。ピツァでも食べに行かない」
僕がよく行くピツァハウスに彼女をつれていって生ビールとアンチョビのピツァを注文した。僕はそれほど腹が減っていなかったので十二ピースのうち四つだけを食べ、残りを緑が全部食べた。
「ずいぶん回復が早いね。さっきまで青くなってふらふらしてたのに」と僕はあきれて言った。
「わがままが聞き届けられたからよ」と緑は言った。「それでつっかえがとれちゃったの。でもこのピツァおいしいわね」
「ねえ、本当に君の家、今誰もいないの」
「うん、いないわよ。お姉さんも友だちの家に泊りに行ってていないわよ。彼女ものすごい怖がりだから、私がいないとき独りで家で寝たりできないの」
「ラブホテルなんて行くのはやめよう」と僕は言った。「あんなところ行ったって空しくなるだけだよ。そんなのやめて君の家に行こう。僕のぶんの布団くらいあるだろう」
緑は少し考えていたが、やがて肯いた。「いいわよ。家に泊ろう」と彼女は言った。
僕らは山手線に乗って大塚まで行って、小林書店のシャッターを上げた。シャッターには「休業中」の紙が貼ってあった。シャッターは長いあいだ開けられたことがなかったらしく、暗い店内には古びた紙の匂いが漂っていた。棚の半分は空っぽで、雑誌は殆んど全部返品用に紐でくくられていた。最初に見たときより店内はもっとがらんとして寒々しかった。まるで海岸打ち捨てられた廃船のように見えた。
「もう店をやるつもりはないの」と僕は訊いてみた。
「売ることにしたのよ」と緑はぽつんと言った。「お店売って、私とお姉さんとでそのお金をわけるの。そしてこれからは誰に保護されることもなく身ひとつで生きていくの。お姉さんは来年結婚して、私はあと三年ちょっと大学に通うの。まあそれくらいのお金にはなるでしょう。アルバイトもするし。店が売れたらどこかにアパートを借りてお姉さんと二人でしばらく暮すわ」
「店は売れそうなの」
「たぶんね。知りあいに毛糸屋さんをやりたいっていう人がいて、少し前からここを売らないかって話があったの」と緑は言った。「でも可哀そうなお父さん。あんなに一所懸命働いて、店を手に入れて、借金を少しずつ返して、そのあげく結局は殆んど何も残らなかったのね。まるであぶくみたいい消えちゃったのね」
「君が残ってる」と僕は言った。
「私」と緑は言っておかしそうに笑った。そして深く息を吸って吐きだした。「もう上に行きましょう。ここ寒いわ」
二階に上ると彼女は僕を食卓に座らせ、風呂をわかした。そのあいだ僕はやかんにお湯をわかし、お茶を入れた。そして風呂がわくまで、僕と緑は食卓で向いあってお茶を飲んだ。彼女は頬杖をついてしばらくじっと僕の顔を見ていた。時計のコツコツという音と冷蔵庫のサーモスタットが入ったり切れたりする音の他には何も聞こえなかった。時計はもう十二時近くを指していた。
「ワタナベ君ってよく見るとけっこう面白い顔してるのね」と緑は言った。
「そうかな」と僕は少し傷ついて言った。
「私って面食いの方なんだけど、あなたの顔って、ほら、よく見ているとだんだんまあこの人でもいいやって気がしてくるのね」
「僕もときどき自分のことそう思うよ。まあ俺でもいいやって」
「ねえ、私、悪く言ってるんじゃないのよ。私ね、うまく感情を言葉で表わすことができないのよ。だからしょっちょう誤解されるの。私が言いたいのは、あなたのことが好きだってこと。これさっき言ったかしら」
「言った」と僕は言った。
「つまり私も少しずつ男の人のことを学んでいるの」
緑はマルボロの箱を持ってきて一本吸った。「最初がゼロだといろいろ学ぶこと多いわね」
「だろうね」と僕は言った。
「あ、そうだ。お父さんにお線香あげてくれる」と緑が言った。僕は彼女のあとをついて仏壇のある部屋に行って、お線香をあげて手をあわせた。
「私ね、この前お父さんのこの写真の前で裸になっちゃったの。全部脱いでじっくり見せてあげたの。ヨガみたいにやって。はい、お父さん、これオッパイよ、これオマンコよって」と緑は言った。
「なんでまた」といささか唖然として質問した。
「なんとなく見せてあげたかったのよ。だって私という存在の半分はお父さんの精子でしょ見せてあげたっていいじゃない。これがあなたの娘ですよって。まあいささか酔払っていたせいはあるけれど」
「ふむ」
「お姉さんがそこに来て腰抜かしてね。だって私がお父さんの遺影の前で裸になって股広げてるんですもの、そりゃまあ驚くわよね」
「まあ、そうだろうね」
「それで私、主旨を説明したの。これこれこういうわけなのよ、だからモモちゃんも私の隣に来て服脱いで一緒にお父さんに見せてあげようって。でも彼女やんなかったわ。あきれて向うに行っちゃったの。そういうところすごく保守的なの」
「比較的まともなんだよ」と僕は言った。
「ねえ、ワタナベ君はお父さんのことどう思った」
「僕は初対面の人ってわりに苦手なんだけど、あの人と二人になっても苦痛は感じなかったね。けっこう気楽にやってたよ。いろんな話したし」
「どんな話したの」
「エウリビデス」
緑はすごく楽しそうに笑った。「あなたって変ってるわねえ。死にかけて苦しんで
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