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小说站 > 历史军事 > ノルウェイの森-挪威的森林(日文版)

正文 第34节 文 / [日]村上春树

    そんな風に緑の父親のことを考えているとだんだんやるせない気持になってきたので、僕は早めに屋上の洗濯ものをとりこんで新宿に出て街を歩いて時間をつぶすことにした。小说站  www.xsz.tw混雑した日曜日の街は僕をホッとさせてくれた。僕は通勤電車みたいに混みあった紀伊国屋書店でフォークナーの八月の光を買い、なるべく音の大きそうなジャズ喫茶に入ってオーネットコールマンだのパドパウエルだののレコードを聴きながら熱くて濃くてまずいコーヒーうを飲み、買ったばかりの本を読んだ。五時半になると僕は本を閉じて外に出て簡単な夕食を食べた。そしてこの先こんな日曜日をいったい何十回、何百回くりかえすことになるのだろうとふと思った。「静かで平和で孤独な日曜日」と僕は口に出して言ってみた。日曜日には僕はねじを巻かないのだ。

    八

    その週の半ばに僕は手のひらをガラスの先で深く切ってしまった。レコード棚のガラスの仕切りが割れていることに気がつかなかったのだ。自分でもびっくりするくらい血がいっぱい出て、それがぽたぽたと下にこぼれ、足もとの床が真っ赤になった。店長がタオルを何枚が持ってきてそれを強く巻いて包帯がわりにしてくれた。そして電話をかけて夜でも開いている救急病院の場所を訊いてくれた。ろくでもない男だったが、そういう処置だけは手ばやかった。病院は幸い近くにあったが、そこに着くまでにタオルは真っ赤に染まって、はみでた血がアスファルトの上にこぼれた。人々はあわてて道をあけてくれた。彼らは喧嘩か何かの傷だと思ったようだった。痛みらしい痛みはなかった。ただ次から次へと血が出てくるだけだった。

    医者は無感動に血だらけのタオルを取り、手首をぎゅっとしばって血を止め傷口を消毒してから縫い合わせ、明日また来なさいと言った。レコード店に戻ると、お前もう家帰れよ、出勤にしといてやるから、と店長が言った。僕はバスに乗って寮に戻った。そして永沢さんの部屋に行ってみた。怪我のせいで気が高ぶっていて誰かと話がしたかったし、彼にもずいぶん長く会っていないような気がしたからだ。

    彼は部屋にいて、tvのスペイン語講座を見ながら缶ビールを飲んでいた。彼は僕の包帯を見て、お前それどうしたんだよと訊いた。ちょっと怪我したのだがたいしたことはないと僕は言った。ビール飲むかと彼が訊いて、いらないと僕は言った。

    「これもうすぐ終るから待ってろよ」と永沢さんは言って、スペイン語の発音の練習をした。僕は自分で湯をわかし、ティーバッグで紅茶を作って飲んだ。スペイン人の女性が例文を読みあげた。「こんなひどい雨ははじめてですわ。バルセロナでは橋がいくつも流されました」。永沢さんは自分でもその例文を読んで発音してから「ひどい例文だよな」と言った。「外国語講座の例文ってこういうのばっかりなんだからまったく」

    スペイン語講座が終ると永沢さんはtvを消し、小型の冷蔵庫からもう一本ビールを出して飲んだ。

    「邪魔じゃないですか」と僕は訊いてみた。

    「俺全然邪魔じゃないよ。台湾小说网  www.192.tw退屈してたんだ。本当にビールいらない」

    いらないと僕は言った。

    「そうそう、このあいだ試験の発表あったよ。受かってたよ」と永沢さんが言った。

    「外務省の試験」

    「そう、正式には外務公務員採用一種試験っていうんだけどね、アホみたいだろ」

    「おめでとう」と僕は言って左手をさしだして握手した。

    「ありがとう」

    「まあ当然でしょうけれどね」

    「まあ当然だけどな」と永沢さんは笑った。「しかしまあちゃんと決まるってのはいいことだよ、とにかく」

    「外国に行くんですか、入省したら」

    「いや最初の一年間は国内研修だね。それから当分は外国にやられる」

    僕は紅茶をすすり、彼はうまそうにビールを飲んだ。

    「この冷蔵庫だけどさ、もしよかったらここを出るときにお前にやるよ」と永沢さんは言った。「欲しいだろこれあると冷たいビール飲めるし」

    「そりゃもらえるんなら欲しいですけどね、永沢さんだって必要でしょうどうぜアパート暮しか何かだろうし」

    「馬鹿言っちゃいけないよ。こんなところ出たら俺はもっとでかい冷蔵庫を買ってゴージャスに暮すよ。こんなケチなところで四年我慢したんだぜ。こんなところで使ってたものなんて目にしたくもないさ。何でも好きなものやるよ、tvだろうが、魔法瓶だろうが、ラジオだろうが」

    「まあなんでもいいですけどね」と僕は言った。そして机の上のスペイン語のテキストブックを手にとって眺めた。「スペイン語始めたんですか」

    「うん。語学はひとつでも沢山できた方が役に立つし、だいたい生来俺はそういうの得意なんだ。フランス語だって独学でやってきて殆んど完璧だしな。ゲームと同じさ。ルールがひとつわかったら、あとはいくつやったってみんな同じなんだよ。ほら女と一緒だよ」

    「ずいぶん内省的な生き方ですね」と僕は皮肉を言った。

    「ところで今度一緒に飯食いに行かないか」と永沢さんが言った。

    「また女漁りじゃないでしょうね」

    「いや、そうじゃなくてさ、純粋な飯だよ。ハツミと三人でちゃんとしたレストランに行って会食するんだ。俺の就職祝いだよ。なるべく高い店に行こう。どうせ払いは父親だから」

    「そういうのはハツミさんと二人でやればいいじゃないですか」

    「お前がいてくれた方が楽なんだよ。その方が俺もハツミも」と永沢さんは言った。

    やれやれ、と僕は思った。それじゃキズキと直子のときとまったく同じじゃないか。

    「飯のあとで俺はハツミのところ行って泊るからさ。飯くらい三人で食おうよ」

    「まああなた二人がそれでいいって言うんなら行きますよ」と僕は言った。「でも永沢さんはどうするですか、ハツミさんのこと研修のあとで国外勤務になって何年も帰ってこないんでしょ彼女はどうなるんですか」

    「それはハツミの問題であって、俺の問題ではない」

    「よく意味がわかんないですね」

    彼は足を机の上にのせたままビールを飲み、あくびをした。小说站  www.xsz.tw

    「つまり俺は誰とも結婚するつもりはないし、そのことはハツミにもちゃんと言ってある。だからさ、ハツミは誰かと結婚したきゃすりゃいいんだ。俺は止めないよ。結婚しないで俺を待ちたきゃ待ちゃいい。そういう意味だよ」

    「ふうん」と僕は感心して言った。

    「ひどいと思うだろ、俺のこと」

    「思いますね」

    「世の中というのは原理的に不公平なものなんだよ。それは俺のせいじゃない。はじめからそうなってるんだ。俺はハツミをだましたことなんか一度もない。そういう意味では俺はひどい人間だから、それが嫌なら別れろってちゃんと言ってる」

    永沢さんはビールを飲んでしまうとタバコをくわえて火をつけた。

    「あなたは人生に対して恐怖を感じるということはないですか」と僕は訊いてみた。

    「あのね、俺はそれほど馬鹿じゃないよ」と永沢さんは言った。「もちろん人生に対して恐怖を感じることはある。そんなの当たり前じゃないか。ただ俺はそういうのを前提条件として認めない。自分の力を百パーセント発揮してやれるところまでやる。欲しいものはとるし、欲しくないものはとらない。そうやって生きていく。駄目だったら駄目になったところでまた考える。不公平な社会というのは逆に考えれば能力を発揮できる社会でもある」

    「身勝手な話みたいだけれど」と僕は言った。

    「でもね、俺は空を見上げて果物が落ちてくるのを待ってるわけじゃないぜ。俺は俺なりにずいぶん努力をしている。お前の十倍くらい努力してる」

    「そうでしょうね」と僕は認めた。

    「だからね、ときどき俺は世間を見まわして本当にうんざりするんだ。どうしてこいつらは努力というものをしないんだろう、努力もせずに不平ばかり言うんだろうってね」

    僕はあきれて永沢さんの顔を眺めた。「僕の目から見れば世の中の人々はずいぶんあくせくと身を粉にして働いているような印象を受けるんですが、僕の見方は間違っているんでしょうか」

    「あれは努力じゃなくてただの労働だ」と永沢さんは簡単に言った。「俺の言う努力というのはそういうのじゃない。努力というのはもっと主体的に目的的になされるもののことだ」

    「たとえば就職が決って他のみんながホッとしている時にスペイン語の勉強を始めるとか、そういうことですね」

    「そういうことだよ。俺は春までにスペイン語を完全にマスターする。英語とドイツ語とフランス語はもうできあがってるし、イタリア語もだいたいはできる。こういうのって努力なくしてできるか」

    彼はタバコを吸い、僕は緑の父親のことを考えた。そして緑の父親はtvでスペイン語の勉強を始めようなんて思いつきもしなかったろうと思った。努力と労働の違いがどこかにあるかなんて考えもしなかったろう。そんなことを考えるには彼はたぶん忙しすぎたのだ。仕事も忙しかったし、福島まで家出した娘を連れ戻しにも行かねばならなかった。

    「食事の話だけど、今度の土曜日でどうだ」と永沢さんが言った。

    いいですよ、と僕は言った。

    永沢さんが選んだ店は麻布の裏手にある静かで上品なフランス料理店だった。永沢さんが名前を言うと我々は奥の個室に通された。小さな部屋で壁には十五枚くらい版画がかかっていた。ハツミさんが来るまで、僕と永沢さんはジョセフコンラッドの小説の話をしながら美味しいワインを飲んだ。永沢さんは見るからに高価そうなグレーのスーツを着て、僕はごく普通のネイビーブルーのブレザーコートを着ていた。

    十五分くらい経ってからハツミさんがやってきた。彼女はとてもきちんと化粧をして金のイヤリングをつけ、深いブルーの素敵なワンピースを着て、上品なかたちの赤いパンプスをはいていた。僕はワンピースの色を賞めると、これはミッドナイトブルーっていうのよとハツミさんは教えてくれた。

    「素敵なところじゃない」とハツミさんが言った。

    「父親が東京に来るとここで飯食うんだ。前に一度一緒に来たことあるよ。俺はこういう気取った料理はあまり好きじゃないけどな」と永沢さんが言った。

    「あら、たまにはいいじゃない、こういうのも。ねえ、ワタナベ君」とハツミさんが言った。

    「そうですね、自分の払いじゃなければね」と僕は言った。

    「うちの父親はだいたいいつも女と来るんだ」と永沢さんが言った。「東京に女がいるから」

    「そう」とハツミさんが言った。

    僕は聞こえないふりをしてワインを飲んでいた。

    やがてウェイターがやってきて、我々は料理を注文した。オードブルとスープを我々は選び、メインディッシュに永沢さんは鴨を、僕とハツミさんは鱸を注文した。料理はとてもゆっくり出てきたので、僕らはワインを飲みながらいろんな話をした。最初は永沢さんが外務省の試験の話をした。受験者の殆んどは底なし沼に放りこんでやりたいようなゴミだが、まあ中には何人かまともなのもいたなと彼は言った。その比率は一般社会の比率と比べて低いのか高いのかと僕は質問してみた。

    「同じだよ、もちろん」と永沢さんはあたり前じゃないかという顔で言った。「そういうのって、どこでも同じなんだよ。一定不変なんだ」

    ワインを飲んでしまうと永沢さんはもう一本注文し、自分のためにスコッチウィスキーをダブルで頼んだ。

    それからハツミさんがまた僕に紹介したい女の子の話を始めた。これはハツミさんと僕の間の永遠の話題だった。彼女は僕に<クラブの下級生のすごく可愛い子>を紹介したがって、僕はいつも逃げまわっていた。

    「でも本当に良い子なのよ、美人だし。今度連れてくるから一度お話しなさいよ。きっと気にいるわよ」

    「駄目ですよ」と僕は言った。「僕はハツミさんの大学の女の子とつきあうには貧乏すぎるもの。お金もないし、話もあわないし」

    「あら、そんなことないわよ。その子なんてとてもさっぱりした良い子よ。全然そんな風に気取ってないし」

    「一度会ってみりゃいいじゃないか、ワタナベ」と永沢さんが言った。「べつにやらなくていいんだから」

    「あたり前でしょう。そんなことしたら大変よ。ちゃんとバージンなんだから」とハツミさんが言った。

    「昔の君みたい」

    「そう、昔の私みたいに」とハツミはにっこり笑って言った。「でもワタナベ君、貧乏だとかなんだかとかって、そんなのあまり関係ないよ。そりゃクラスに何人かはものすごく気取ったバリバリの子はいるけれど、あとは私たち普通なのよ。お昼には学食で二百五十円のランチ食べて――」

    「ねえハツミさん」と僕は口をはさんだ。「僕の学校の学食のランチは、a、b、cとあってaが百二十円でbは百円でcが八十円なんです。それでたまに僕がaランチを食べるとみんな嫌な目で見るんです。cランチが食えないやつは六十円のラーメン食うんです。そういう学校なんです。話があうと思いますか」

    ハツミさんは大笑いした。「安いわねえ、私食べに行こうかしら。でもね、ワタナベ君、あなた良い人だし、きっと彼女と話あうわよ。彼女だって百二十円のランチ気に入るかもしれないわよ」

    「まさか」と僕は笑って言った。「誰もあんなもの気に入ってやしませんよ。仕方ないから食べてるんです。

    「でも入れもので私たちを判断しないでよ、ワタナベ君。そりゅまあかなりちゃらちゃらしたお嬢様学校であるにせよ、真面目に人生を考えて生きているまともな女の子だって沢山いるのよ。みんながみんなスポーツカーに乗った男の子とつきあいたいと思ってるわけじゃないのよ」

    「それはもちろんわかってますよ」と僕は言った。

    「ワタナベには好きな女の子がいるんだよ」と永沢さんが言った。「でもそれについてはこの男は一言もしゃべらないんだ。なにしろ口が固くてね。全ては謎に包まれているんだ」

    「本当」とハツミさんが僕に訊いた。

    「本当です。でも別に謎なんてありませんよ。ただ事情がとてもこみいって話しづらいだけです」

    「道ならぬ恋とかそういうのねえ、私に相談してごらんなさいよ」

    僕はワインを飲んでごまかした。

    「ほら、口が固いだろう」と三杯目のウィスキーを飲みながら永沢さんが言った。「この男は一度言わないって決めたら絶対に言わないんだもの」

    「残念ねえ」とハツミさんはテリーヌを小さく切ってフォークで口に運びながら言った。「その女の子とあなたがうまくいったら私たちダブルデートできたのにね」

    「酔払ってスワッピングだってできたのにね」と永沢さんが言った。

    「変なこと言わないでよ」

    「変じゃないよ、ワタナベ君のこと好きなんだから」

    「それとこれは別でしょう」とハツミさんは静かな声で言った。「

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