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小说站 > 历史军事 > ノルウェイの森-挪威的森林(日文版)

正文 第13节 文 / [日]村上春树

    あいだかに会えたかどうかさえ書いてないの。栗子小说    m.lizi.tw終わりの方にももう少し落ちついたら私とお姉さんを呼びよせるって書いてあったけど、それっきり音信不通。こっちから手紙出しても返事も来やしないし」

    「それでもしお父さんがウルグアイに来いて言ったら、君どうするの」

    「私は行ってみるわよ。だって面白そうじゃない。お姉さんは絶対に行かないって。うちのお姉さんは不潔なものとか不潔な場所とかが大嫌いなの」

    「ウルグアイってそんなに不潔なの」

    「知らないわよ。でも彼女はそう信じてるの。道はロバのウンコいっぱいで、そこに蝿がいっぱいたかって、水洗すいせん便所の水はろくに流れなくて、トカゲやらサソリやらがうようよいるって。そういう映画をどこかで見たんじゃないかしら。お姉さんって虫も大嫌いなの。お姉さんの好きなのはチャラチャラした車に乗って湘南あたりをドライブすることなの」

    「ふうん」

    「ウルグアイ、いいじゃない。私は行ってもいいわよ」

    「それじゃこのお店は今誰がやってるの」と僕は訊いてみた。

    「お姉さんがいやいややってるの。近所に住んでる親戚のおじさんが毎日手伝ってくれて配達もやってくれるし、私も暇があれば手伝うし、まあ書店というのはそれほど重労働じゃないからなんとかとかやれてるわよ。どうにもやれなくなったらお店畳んで売っちゃうつもりだけど」

    「お父さんのことは好きなの」

    緑は首を振った。「とくに好きってわけでもないわね」

    「じゃあどうしてウルグアイまでついていくの」

    「信用してるからよ」

    「信用」

    「そう、たいして好きなわけじゃないけど信用してるのよ、お父さんのとこを。奥さんを亡くしたショックで家も子供も仕事も放りだしてふらっとウルグアイに行っちゃうような人を私は信用するのよ。わかる」

    僕はため息をついた。「わかるような気もするし、わからないような気もするし」

    緑はおかしそうに笑って、僕の背中を軽く叩いた。「いいのよ、別にどっちだっていいんだから」と彼女は言った。

    その日曜日の午後にはばたばたといろんなコトが起きった。奇妙な日だった。緑の家のすぐ近所で火事があって、僕らは三階の物干しにのぼってそれを見物し、そしてなんとなくキスした。そんなふうに言ってしまうと馬鹿みたいだけれど、物事は実にそのとおりに進行したのだ。

    僕らは大学の話をしながら食後のコーヒーを飲んでいると、消防自動車のサイレンの音が聞こえた。サイレンの音はだんだん大きくなり、その数も増えているようだった。窓の下を大勢の人が走り、何人かは大声で呼んでいた。緑は通りに面した部屋に行って窓を開けて下を見てから、ちょっとここで待っててねと言ってからどこかに消えた。とんとんとんと足早に階段を上がる音が聞こえた。

    僕は一人でコーヒーを飲みながらウルグアイっていったいどこにあったんだっけと考えていた。小说站  www.xsz.twブラジルがあそこで、ベネズエラがあそこで、このへんがコロンビアでとずっと考えていたが、ウルグアイがどのへんにあるのかはどうしても思い出せなかった。そのうちに緑が下におりてきて、ねえ、早く一緒に来てよといった。僕は彼女のあとをついて廊下のつきあたりにある狭い急な階段を上り、広い物干し場に出た。物干し場はまわりの家の屋根よりもひときわ高くなっていて、近所が一望いちぼうに見わたせた。三軒か四軒向うからもうもうと黒煙が上がり、微風にのって大通りの方に流れていた。きな臭い匂いが漂っていた。

    「あれ坂本さんのところだわね」と緑は手すりから身をのりだす用にして言った。「坂本さんって以前建具屋さんだったの。今は店じまいして商売してはいないんだけど」

    僕は手すりから身をのりだしてそちらを眺めてみた。ちょうど三階建てのビルのかげになっていて、くわしい状況はわからなかったけれど、消防車が三台か四台あつまって消火作業をつづけていているようだった。もっとも通りが狭いせいで、せいぜい二台しか中に入れず、あとの車は大通りの方で待機していた。そして通りには例によって見物人がひしめいていた。

    「大事なものがあったらまとめて、ここは非難したほうがいいみたいだな」と僕は緑に言った。「今は風向きが逆だからいいけど、いつ変るかもしれないし、すぐそこがガソリンスタンドだものね。手伝うから荷物をまとめなよ」

    「大事なものなんてないわよ」と緑は言った。

    「でも何かあるだろう。預金通帳とか実印とか証書とか、そういうもの。とりあえずのお金だってなきゃ困るし」

    「大丈夫よ。私逃げないもの」

    「ここが燃えても」

    「ええ」と緑は言った。「死んだってかまわないもの」

    僕は緑の目を見た。緑も僕の目を見た。彼女のいったいることがどこまで本気なのかどこから冗談なのかさっぱり僕にはわからなかった。僕はしばらく彼女を見ていたが、そのうちにもうどうでもいいやという気になってきた。

    「いいよ、わかったよ。つきあうよ、君に」と僕は言った。

    「一緒に死んでくれるの」と緑は目をかがやかせて言った。

    「まさか。危なくなったら僕は逃げるの。死にたいんなら君が一人で死ねばいいさ」

    「冷たいのね」

    「昼飯をごちそうしてもらったくらいで一緒に死ぬわけにはいかないよ。夕食ならともかくさ」

    「ふうん、まあいいわ、とにかくここでしばらく成り行きを眺めながら唄でも唄ってましょうよ。まずくなってきたらまたその時に考えばいいもの」

    「唄」

    緑は下から座布団ざぶとんを二枚と缶ビールを四本とギターを物干し場に運んできた。そして僕らはもうもうと上がる黒煙を眺めつつビールを飲んだ。そして緑はギターを弾いて唄を唄った。こんなことして近所の顰蹙ひんしゅくをかわないのかと僕は緑に訊ねてみた。栗子网  www.lizi.tw近所の火事を見物しながら物干しで酒を飲んで唄を唄うなんてあまりまともな行為だとは思えなかったからだ。

    「大丈夫よ、そんなの。私たち近所のことって気にしないことにしてるの」と緑は言った。

    彼女は昔はやったフォークソングを唄った。唄もギターもお世辞にも上手いとは言えなかったが、本人はとても楽しそうだった。彼女はレモンツリーだの「バフ」だの五〇〇マイルだの花はどこに行っただの漕げよマイケルだのをかたっぱしから唄っていった。はじめのうち緑は僕に低音パートを教えて二人で合唱がっしょうしようとしたが、僕の唄があまりにもひどいのでそれはあきらめ、あとは一人で気のすむまで唄いつづけた。僕はビールをすすり、彼女の唄を聴きながら、火事の様子を注意深く眺めていた。煙は急に勢いよくなったかと思うと少し収まりというのをくりかえしていた。人々は大声で何かを呼んだり命令したりしていた。ばたばたという大きな音をたてて新聞社のヘリコプターがやってきて写真を撮って帰っていった。我々の姿が写ってなければいいけれどと僕は思った。警官がラウトスピーカーで野次馬に向かってもっと後ろに退ってなさいとどなっていた。子供が泣き声で母親を呼んでいた。どこかでガラスの割れる声がした。やがて風が不安定に舞いはじめ、白い燃えさしのようなものが我々のまわりにもちらほらと舞ってくるようになった。それでも緑はちびちびとビールをのみながら気持良さそうに唄いつづけていた。知っている唄をひととおり唄ってしまうと、今度は自分で作詞作曲したという不思議な唄を唄った。

    あなたのためにシチュー作りたいのに

    私には鍋がない。

    あなたのためにマフラーを編みたいのに

    わたしには毛糸がない。

    あなたのために詩を書きたいのに

    私にはペンがない

    「何もないっていう唄なの」と緑は言った。歌詞もひどいし、曲もひどかった。

    僕はそんな無茶苦茶な唄を聴きながら、もしガソリンスタンドに引火したら、この家も吹きとんじゃうだろうなというようなことを考えていた。緑は唄い疲れるとギターを置き、日なたの猫みたいにごろんと僕の肩にもたれかかった。

    「私の作った唄どうだった」と緑が訊いた。

    「ユニークで独創的で、君の人柄がよく出てる」と僕は注意深く答えた。

    「ありがとう」と彼女は言った。「何もない―というのがテーマの」

    「わかるような気がする」と僕は肯いた。

    「ねえ、お母さんの死んだときのことなんだけどね」と緑は僕の方を向っていった。

    「うん」

    「私ちっとも悲しくなかったの」

    「うん」

    「それからお父さんがいなくなっても全然悲しくないの」

    「そう」

    「そう。こういうのってひどいと思わない冷たすぎると思わない」

    「でもいろいろ事情があるわけだろうそうなるには」

    「そうね、まあ、いろいろとね」と緑は言った。「それなりに複雑だったのよ、うち。でもね、私ずっとこう思ってたのよ。なんのかんのといっても実のお父さんお母さんなんだから、死んじゃったり別れちゃったりしたら悲しいだろうって。でも駄目なのよね。なんにも感じないのよ。悲しくもないし、淋しくもないし、辛くもないし、殆んど思い出しもしないのよ。ときどき夢に出てくるだけ。お母さんが出てきてね、暗闇の奥からじっと私を睨んでこう非難するのよ、お前、私が死んで嬉しんだろう」ってね。べつにうれしがないわよ、お母さんが死んだことは。ただそれほど悲しくないっていうだけのことなの。正直なところ涙一滴出やしなかったわ。子供のとき飼ってた猫が死んだときは一晩泣いたのにね」

    なんだってこんなにいっぱい煙が出るんだろうと僕は思った。火も見えないし、燃え広がった様子もない。ただ延々と煙がたちのぼっているのだ。いったいこんなに長いあいだ何が燃えているんだろうと僕は不思議に思った。

    「でもそれは私だけのせいじゃないのよ。そりゃ私も情の薄いところあるわよ。それは認めるわ。でもね、もしあの人たちが―お父さんとお母さんが―もう少し私のことを愛してくれていたとしたら、私だってもっと違った感じ方ができてたと思うの。もっともっと悲しい気持ちになるとかね」

    「あまり愛されなかったと思うの」

    彼女は首を曲げて僕の顔を見た。そしてこくんと肯いた。「十分じゃないと全然足りないの中間くらいね。いつも飢えてたの、私。一度でいいから愛情をたっぷりと受けてみたかったの。もういい、おなかいっぱい、ごちそうさまっていうくらい。一度でいいのよ、たった一度で。でもあの人たちはただの一度も私にそういうの与えてくれなかったわ。甘えるとつきとばされて、金がかかるって文句ばかり言われて、ずうっとそうだったのよ。それで私こう思ったの、私のことを年中百パーセント愛してくれる人を自分でみつけて手に入れてやるって。小学校五年か六年のときにそう決心したの」

    「すごいね」と僕は感心して言った。「それで成果はあがった」

    「むずかしいところね」と緑は言った。そして煙を眺めながらしばらく考えていた。「多分あまりに長く持ちすぎたせいね、私すごく完璧なものを求めてるの。だからむずかしいのよ」

    「完璧な愛を」

    「違うわよ。いくら私でもそこまえは求めてないわよ。私が求めているのは単なるわがままなの。完璧なわがまま。たとえば今私があなたに向かって苺のシュートケーキが食べたいって言うわね、するとあなたはなにもかも放りだして走ってそれを買いに行くのよ。そしてはあはあ言いながら帰ってきてはいミドリ、苺のショートケーキだよってさしだすでしょ、すると私はふん、こんなのもう食べたくなくなっちゃったわよって言ってそれを窓からぽいと放り投げるの。私が求めているのはそういうものなの」

    「そんなの愛とはなんの関係もないような気がするけどな」と僕はいささか愕然として言った。

    「あるわよ。あなたが知らないだけよ」と緑は言った。「女の子にはね、そう言うのがものすごく大切なときがあるのよ」

    「苺のショートケーキを窓から放り投げることが」

    「そうよ。私は相手の男の人にこう言ってほしいの。わかったよ、ミドリ。僕がわるかった。君が苺のシュートケーキを食べたくなくなることくらい推察するべきだった。僕はロバのウンコみたいに馬鹿で無神経だった。お詫びにもう一度何かべつのものを買いに行ってきてあげよう。何がいいチョコレートムース、それともチーズケーキ」

    「するとどうなる」

    「ずいぶん理不尽な話みたいに思えるけどな」

    「でも私にとってそれが愛なのよ。誰も理解してくれないけれど」と緑は言って僕の肩の上で小さく首を振った。「ある種の人々にとって愛というのはすごくささやかな、あるいは下らないところから始まるのよ。そこからじゃないと始まらないのよ」

    「君みたいな考え方をする女の子に会ったのははじめてだな」と僕は言った。

    「そういう人はけっこう多いわね」と彼女は爪の甘皮をいじりながら言った。「でも私、真剣にそういう考え方しかできないの。ただ正直に言ってるだけなの。べつに他人と変った考え方してるなんて思ったこともないし、そんなもの求めてるわけでもないのよ。でも私が正直に話すと、そんな冗談か演技だと思うの。それでときどき何もかも面倒臭くなっちゃうけどね」

    「そして火事で死んでやろうと思うの」

    「あら、これはそういうじゃないわよ。これはね、ただの好奇心」

    「火事で死ぬことが」

    「そうじゃなくてあなたがどう反応するか見てみたかったのよ」と緑は言った。「でも死ぬこと自体はちっとも怖くないわよ。それは本当。こんなの煙にまかれて気を失ってそのまま死んじゃうだけだもの、あっという間よ。全然怖くないわ。私の見てきたお母さんやら他の親戚の人の死に方に比べたらね。ねえ、うちの親戚ってみんな大病して苦しみ抜いて死ぬのよ。なんだかどうもそういう血筋ちすじらしいの。死ぬまでにすごく時間がかかるわけ。最後の方は生きてるのか死んでるのかそれさえわからないくらい。残ってる意識と言えば痛みと苦しみだけ」

    緑はマルボロをくわえて火をつけた。

    「私が怖いのはね、そういうタイプの死なのよ。ゆっくりゆっくり死の影が生命の領域を侵蝕して、気がついたら薄暗くて何も見えなくなっていて、まわりの人も私のことを生者よりは死者に近いと考えているような、そういう状況なのよ。そんなのって嫌よ。絶対に耐えられないわ、私」

    結局それから三十分ほどで火事はおさまった。大した延焼もなく、怪我人も出なかったようだった。消防車も一台だけを残して帰路につき、人々もがやがやと話をしながら商店街をひきあげていった。交通を規制する

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